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家族ごっこ #5 side Y

目の前でぽつりぽつりと身の上話を語る彼の半生は、想像以上に壮絶で悲しいものだった。酒乱の父親、母親の蒸発、それと同時に始まった父親からのDV、児童養護施設への入所、弟との別れ…それらが多感な十代の出来事だというのだから、正直、言葉が見つからない。 「夢見てしまったんです。柄にもなく。そのせいで若い二人を傷つけてしまいました。本当に申し訳ありません。」 話の終わりを告げるべく、そう言って深々と頭を下げた。彼はやはり、真祐との関係を断ち切ろうとしている。 彼には何の落ち度もない。謝る必要なんてどこにもない。ただ、真と弟さんを重ねて見ていただけだ。遠い過去に諦めた家族という存在に触れようとしただけ。直生が心配するようなものは微塵もない。しかしながら、このルックスだ。直生に珍しく人を挑発する行為をさせるには充分だ。冬真と真祐。タイプは違えど、親しくなった年上の友達は、紛れもなく甘いマスクの持ち主。俊介さんが正統派なら、赤城君は職業柄、もしくは髭のせいか憂いを帯びていて、少しワイルドな印象を与える。掛けてあげる言葉も見つからず、沈黙が続いた。そんな中、ふと俊介さんが現れた時のことを思い出した。あの頃、俊介さんが抱いていた感情と赤城君のそれとは全く違う。だけどあの頃、俊介さんもその関係を断ち切ろうとしていた。 あれは冬真のためだったのかな? それとも俺のため? あの時…俺はどうしたんだっけ? 確か…… 「ねぇ、赤城さん?」 「はい……」 「良かったら、晩飯、うちで食べていかない?」 「晩飯…ですか?」 「そう。大したもてなしも出来ないけどね。今日は真も直生も帰って来ないし、俺ともうすぐ帰ってくる次男とほぼ二人だけの寂しい食卓なんだ。赤城さんがいてくれたら俺も助かるし、次男もかなり喜ぶと思うんだけど…」 「はぁ…」 「それにうちの次男、俺が言うのも変だけど、なかなか面白い、いいヤツでさ。本人の元々の気質もあるんだろうけど、真が育てたって言っても過言ではないぐらいなんだ。会っておいて損はないと思うよ。俺自身も兄弟は兄貴だけで、世間から弟って呼ばれてる人だから、兄貴の気持ちなんてよく分からないけど、真とは全く違うタイプのああいう弟も悪くはないんじゃないかな。まぁ、この際、どうせなら色んなタイプの弟、体験してみては?」 赤城君はきっと賢い。 彼の負担にならない様にと砕けた言葉を並べた俺に、全てを悟った如く、ふふっと笑って言う。 「じゃあ…お言葉に甘えて。」

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