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天使との遭遇 #1 side A

「ただいまぁ〜あれれぇ?おきゃくさまだぁ。こんにちは。」 目の前に突如現れた少年は、天使を想像させるには充分なほど美しく、愛らしい。ランドセルを背負ったまま、ちょこんと頭を下げる仕草、こちらに向ける満面の笑み、全てが神々しく見え、不覚にも言葉に詰まるほど見惚れてしまう。 「えっーと…こっ、こんにちは。おっ、邪魔しています。」 「おかえり、冬葉。今、紹介する…」 里中さんが互いを紹介しようとしたのも束の間、少年はそれを制するように里中さんに言う。 「ようすけパパ、だいじょうぶだよ!ふゆくん、そのお兄さんのことしってる。たぶん。」 「「えっ?」」 里中さんとほぼ同時に声を上げた。もちろん、彼には会ったこともないし、里中さんも話したことはないのか、『えっ?何で?』と小声で呟いた。 「誰かから何か聞いたのか?」 里中さんの問いに、少年は首を横に振る。 「だれからもなんにもきいてないよ。うふふふ。ふたりともそんなにびっくりしないでよ。そのお兄さんは…あかぎさん♪しんちゃんがお兄ちゃんって思っている人。そうでしょう?ふゆくん、すごくすごーく会いたかったの。おはなししたいことがたーくさんあるの。早くおはなししたかったから、まい日まい日、おほしさまにおねがいしたんだよ。おほしさまはすごいね!もう、おねがいかなえてくれたよ♪あっ、ごめんなさい。はじめましてのまえには、おなまえいわなくちゃだね!はじめまして、里中ふゆはです。このまえ8さいになりました。」 冬葉君は一歩前に歩み出で、その小さな両手で俺の手を握った。 「赤城和臣です。はっ…はじめまして…」 「よろしくね。かずくん♪ふゆくんのことは『ふゆは』ってよんでね。ふゆくんのお兄ちゃんはみんな、ふゆくんのこと『ふゆは』ってよぶの♪だから、かずくんも。ねっ。」 「かっ、和くん?」 小さいけれど、とても温かい手が更にぎゅっと握ってくる。不思議だった。こうして彼に手を握ってもらっていると、自分の中の全ての不安や葛藤が取り除かれるような気がしてくる。 「かずくん?お耳かして。」 「う、うん…」 彼に合わせて屈むと、彼は耳元で囁いた。 「かずくん、だいじょうぶ。もう、えーんえーんしなくていいからね。」 「えっ?」 それだけ言うと冬葉君は俺から離れ、里中さんの方へトコトコと歩いて行った。 「今日は、とうまパパに会える?」 「うーん…どうかなぁ…」 「おねつは?」 「熱はないんだけどさ…」 「じゃあ、だいじょうぶ!とうまパパはすぐにニコニコちゃんになるよ!」 「どうしてだ?」 「どうしてって…ようすけパパわからないの?かずくんが来てくれたからにきまってるじゃない!ごはんもいっしょにたべるとおもうよ。とうまパパの分もちゃんと作ってね♪ようすけパパ!ふゆくん、おてつだいしなくちゃだけど、かずくんとおはなししなくちゃだから、今日はおてつだいしなくてもいい?とうまパパにしんちゃん、それから、なおくんとかずくん、みんなを早くニコニコちゃんにしなくっちゃ♪ふゆくんのおしごとだからね♪」 里中さんが呆気に取られた表情をしたのは一瞬で、すぐに笑顔を取り戻す。 「お前がそう言うんなら、安心だな。オッケー!晩飯は任せろ!その代わり、そっちは任せたぞ!我が家の天使君!」 「ラジャー♪」 里中さんは冬葉君の前に掌を差し出すと、冬葉君はその手にパチンとタッチをした。

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