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天使との遭遇 #3 side A

兄とその家族を自らの手で守ると言ったのは、目の前で柔らかに微笑む小さな美少年。こんな小さな子に何が出来るというのだろう。しかも、赤の他人である俺までって…この子の夢物語に付き合わされているだけなのだろうか?どの程度で話を聞けばよいのだろう。 「あーっ!ぼくのことしんじてないね。」 笑顔から一転、冬葉君は唇を尖らせた。 「ええーっと…そうじゃなくて…うーん…何て言ったら良いのかな…」 しどろもどろする俺を見て、冬葉君は吹き出した。 「うふふふ。かずくんは正直者だね。そう、ぼくはまだ小さくて、出来ることはほんの少し。でもね、ぼくにだから出来ることもあるんだよ。ぼくはね、みんなのために、いつもおとなりをあけておいてるの。」 「おとなり?」 「そう。かなしくなったり、さびしくなったりしたした時、おとなりにいてあげられるように。いっしょにおはなししたり、ただ、だまっているだけだったり、こうしておべんきょうしていたり…その人によって、ぜ〜んぜんちがうけど。しんちゃん…ぼくのお兄ちゃんはね、ぼくのおとなりにいる時だけフクザツ君じゃなくなるの。何でだとおもう?」 首を横に振る俺を見て、冬葉君は続けて言う。 「ぼくのお兄ちゃんはね、ぼくのおとなりにいる時だけ、いろいろなことわすれられるの。ただのぼくのお兄ちゃんにもどれるの。ぼくがわらっていると安心するみたい。だからかな?いつもより、ちょっとだけおしゃべりになるの。かずくんと会った日もそうだったよ。」 「俺?」 「うん。あー、似てるけどちょっとちがうかな。かずくんのおとなり…ううん…かずくんの前だね。かずくんのおしごとは、おきゃくさんの前にいることだから。しんちゃんは、かずくんの前だと、あまえんぼうちゃんになれるんだとおもう。ぼくのおとなりとはちがう。ぼくのおとなりじゃ、あまえんぼうちゃんにはなれないもの。はじめてなんだとおもう。しんちゃんが、あまえんぼうちゃんになったの。そういうの、しんちゃんは本当に下手っぴだから。かずくんも同じだったんだよね?」 「……」 「かずくんもしんちゃんも、あまえんぼうちゃんの自分をこっそりつれてきて、二人でおはなしするだけでよかったの。それだけでたのしかったし、ホッと出来た。それだけなのに、何でもう会わないの?ただ、二人でおはなしをするだけだよ。何がいけないの?また会っておはなしすればいいじゃない?」 「大人ってさ…あんまり簡単じゃなくてさ。誰かを傷つけてまでって…そういうのは…」 「直くんのことだね。直くんはさ、くやしかっただけなんだ。かずくんがカッコイイからあせっちゃったんだね。直くんはしんちゃんの全てを手に入れたいの。自分だけのしんちゃんでいてほしかったの。でもさ、そんなのむりだよね?ぼくだってイヤだよ、そんなの。それに、ちゃんとかんがえれば、直くんがしんちゃんにしてあげられること、直くんにしかできないことの方が、かずくんよりもゼーッタイ多いのに、何で気がつかないんだろう。ぼくがそう言ったら、直くん、すごーくビックリしたお顔して、それから、かなしそうなお顔になって『あ~あ、赤城さん、若気の至りって思ってくれないかな』って。いみは分からないけど、ゆるしてくれないかなってことでしょ?」 「そうだね…」 「わるいことして、ごめんなさいも言えないなんて、それはかなしいことだよ。もう会えないって分かったらとくに。かずくんは直くんにそんなことおもってほしくないでしょう?」 「うん…」 「だから、もうしんちゃんと、もう会わないなんて言わないで。ぼくといっしょにしんちゃんを守ってほしい。しんちゃんをあまえんぼうちゃんにさせてあげて。直くんにごめんなさいさせてあげて。そして、かずくんにもこうして、ぼくのおとなりにすわってほしいんだ。ぼくは、しんちゃんのおとうと。だったら、ぼくもかずくんのおとうとだよね?ぼくだって、一度くらいあまえんぼうちゃんになるけんり、あるんじゃないかな?ぼくは、まだ一回もあまえんぼうちゃんになったことない。」 まろ味のあるウィスキー色の瞳を持つ少年は、目の前の大人に何一つ臆することなく完膚無きまでに持論を論破する。しかも終始笑顔で。完敗だ。 あ~あ… 今度は俺が吹き出した。盛大に。 「分かった、分かった。俺の負け。君の言う通りにするよ。一緒に真祐君を守る。誓うよ。しかし、君はすごいね。発言に説得力もあるし、勇気もある。将来は政治家にでもなったら?カリスマになれそうだ。」 「せいじか?ううん、ぼくは大きくなったら、おいしゃさんになるんだよ。パパのびょうきを早くなおさなくっちゃ!」 「君は医者を目指しているのか…楽しみにしているよ。あと15年ぐらいかな。その日をのんびりと健康に留意して。」 「うふふふ。のんびりなんてむりだよ。むり。」 「どうして?」 「ぼくたちが、かぞくになったから。」 「えっ?」 「ぼくのパパ、ようすけパパはね、かぞくをとてもたいせつにする人なんだ。かぞくとおもった人は、ぜったい一人ぼっちにしない。このおうちに来ることが多くなるはずだよ。それに…とうまパパ。とうまパパって、すごーくふしぎなんだけど…パパのこと、みーんなだいすきになるの。だからね、かずくんも会いたくなるよ。きっと。」 「君のパパは嫌だろうなぁ。こんな髭面の38の息子なんて。だって、俺は君のお父さんっていつてもおかしくない年齢なんだぜ?」 「そんなのかんけいないよ。人んちは人んち、ぼくんちはぼくんち。これからはこせいの時代!なんでしょう?かずくんだって、そうおもうよね?さぁ、ばんごはんのお手伝いしにいこう!お手伝いは子どもの『さいじゅうようにんむ』だから!」 「最重要任務?」 「…と、あなたのおとうと1号が言ったのです。」 冬葉君はツンとすまし顔で言った。 「あははは…確かに。さすがだね、弟1号は。」 天使はにっこりと微笑んで俺の手を取った。温かい手は変わらない。それだけではなく、今は背中をそっと押してくれる。世間では8歳は子供。8歳の子に言い負かされる大人なんて誰もいやしない。ばかげている。だけど、この8歳は違う。かなりの大物だ。将来どんな大人になるのだろう?そばにいてそれを見届けるのも悪くないかな。せっかくそれが出来るお許しが出たのだから。

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