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天使との遭遇 #6 side M
「あのチョコレート…もうないの…」
「そうなの?」
「この前、ようすけパパがふゆくんのお目目の色のおさけ、のんでいるときに食べているの見ちゃって…」
「うん。」
「『パパ、する〜い!』って言ったら、ようすけパパがひとつくれたの。ふゆくん…ひとつだけのつもりだったんだけど…きがついたら…二人でぜーんぶ食べちゃって…すぐにあやまろうとおもってたのに…わすれちゃってた…」
「いいんだよ…」
「よくないよ。」
「いいの、いいの。だって、二人で食べたんでしょう?」
「うん…」
「二人で食べたのなら良いの。だって、あのチョコレートは…二人へのおみやげだろうから…」
「どうして?」
「あの日、和臣君は冬くんのお目目色のお酒…ウイスキーって言うんだけど…あれとチョコレート、一緒に持ってきてくれたでしょう?ウイスキーはチョコレートと一緒に飲むこともあるからね…パパはお酒は得意じゃないし…それに何より…チョコレートは冬くんの大好物じゃない?だからね…あのチョコレートは二人へのおみやげなんだと思うよ。」
「でも…」
「冬くんが謝る必要はどこにもないんだよ…二人が喜んだだもの…パパはそれだけで充分。パパの方こそ…小さい君に気を遣わせてしまって……僕は本当にダメなパパだね…ごめんね…やっぱり葉祐みたいなパパにはなれないな…」
おじさまはちょっと寂しそうに笑って、またウサギくんの頭を撫でた。何とも儚い笑顔…胸が締めつけられるような…
「パパぁ…」
ウサギくんは首を横に振り続け、おじさまを無言で抱きしめた。そして、ただただ背中を擦った。そんなことないよとばかりに。
たかだかチョコレート食べちゃっただけの話。どうしてこんな風に発展するかなぁ?最初はそう思った。でも、初めておじさまに会った日のこと、初めてEvergreenを訪ねた日のことを思い出した。このおうちはかなり複雑。おじさまがこんな風に過ごせる時間はそうそうなくて…色々と引け目を感じてる。そして、ウサギくんはそれを理解している。あんなに小さいのに。何も出来ない自分がもどかしいんだろうな。でも、やっぱり、チョコレート食べちゃっただけの話だよ。おじさまが引け目を感じることでもないし、ウサギくんが悲しみ、悩む必要もない。この二人はさっきみたいなキラキラが似合うのに…
たかがチョコレート…されどチョコレート…
チョコレート…チョコレート…チョコレート…
えっ?チョコレート?
あっ!
「ちょっと待ったぁ〜!」
ソファーから勢いよく立ち上がると、二人は同時に私を見た。
「おじさま!キッチンお借りしますね。ウサギくん、ちょっと手伝って!」
「何のおてつだい?」
「えっへへへ!それはね…未華子のチョコレートパーティーの♪ティーパーティーのお礼だよ♡」
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