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天使との遭遇 #7 side M

ウサギくんは私が鞄から取り出したチョコレートに興味津々。 「ねぇ、みかこちゃん、それってコーヒーのおまめ?」 「ううん、チョコレートだよ。麦チョコ。もしかして…知らない?」 「うん…」 「これは色々食べ方があって…まずは基本形。あっ、この器が良いかな。麦チョコを少し、器に入れまーす。はい、このまま召し上がれ♪あ〜ん。」 スプーンひとすくい。ウサギくんの口に入れると、ウサギくんの瞳はまたたく間に輝き、そして両頬に手を添えた。 「おっ、おいしー!」 「でしょ?でもね、麦チョコの醍醐味は…こっちだったりするの。」 器に牛乳を入れ、またひとすくい。ウサギくんは更に瞳を輝かせる。 「麦チョコには色んな食べ方があるんだよ。バニラアイスに乗せて食べるっていう禁じ手も。でも、晩ごはんの前だから、今はここまで。残りはウサギくんにあげる。ティーパーティーのお礼だよ。」 「ありがとう!みかこちゃん!これ、パパにあげてもいい?」 「うん、どうぞ!」 「パパぁ〜みかこちゃんから、まほうのチョコレートもらったよ〜パパも食べて〜おいしいよ!」 ウサギくんは注意深くソファーへ移動すると、冬真おじさまに私と同じことをやってみせた。それから、二言三言交わすと今度はテーブルに移動し、残りのチョコレートを食べ始めた。 「ありがとう…未華子さん…助かったよ。」 私がソファーへ戻ると、冬真おじさまは礼を述べた。 「いいえ。Evergreenに来る前、駅前で道を尋ねられたんです。その方からお礼に頂いて…お断りしたんですけどね。でも、思わぬところで役に立ちました。」 「君は相変わらず…困っている人の救世主なんだね…」 「いやだぁ〜オーバーですよ、そんなの。当たり前のことをしているだけです。」 「ううん。僕もあの時助けられたし…そして今も。僕はね…親っていう人がよく分からないんだ…あまり縁が無くて…家族。」 おじさまはちらりとチェストに視線を移した。そこには少し古い写真が飾ってあった。写っていたのは、おじさまに瓜二つの男性… 「お父様…てすか?」 「うん。僕が2歳になって間もなく亡くなったの。母は存命だけど…事情があって…会えないんだ。会うとお互い生活に支障をきたすの…多分。だから…5歳の時から別居。もう何十年も…会ってない。その後…色々あって…最終的に母方の祖父の元に預けられた。忙しい人でね…僕もほぼ病院での生活だったから…一緒にいた時間はほとんどなくて…」 おじさまは一口紅茶を啜る。 「さっきみたいに子供が悲しんでも…親っていう人はどう接するのか…全然分からなくて…僕なりに頑張ってはいるつもりなんだけど…なのに、ああして気を遣わせてしまったり、悲しませたり、しょっちゅうなんだ。そんな親…いないよね?最低でしょ?親なのに。でも、あの子…冬葉はまだ小さいから…良い方で…真祐なんて…もっと。気を遣わせて…悲しませて…困らせてばかり。ホント情けない…」 おじさまは膝の上に手を重ねて、小さく息を吐いた。 「おじさま…」 「ああ、ごめんなさい…こんな話。えーっと…とにかくありがとう…僕一人だったら…あの子の笑顔を取り戻せたかどうか…」 おじさまは嬉しそうにチョコレートを食べるウサギくんを一瞥し、それから笑って見せた。その笑顔はどこか無理矢理で、途方もない悲しみに染まったまま。おじさまのあの美しい笑顔からは程遠い。

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