106 / 132

独占欲 #4 side T&Y

〈side T〉 葉祐…怒っているの? ううん、違う。拗ねている…のかな? でも、どうして? ああ…そっか… いつものあれ…だね… 僕にそこまでする価値があるのか…本当に分からないけれど… そういう葉祐も僕は好きだよ…斎藤さんが呆れても… 〈side Y〉 手にヒンヤリと冷たい感触が当たる。どうしたのかと見てみれば、冬真が立ち上がり、俺の手を握っていた。 えっ? 「良かったら…ソファーで飲まない?お茶…」 「もしかして…具合悪くなったのか?ツライのか?」 一瞬ヒヤリとする。俺の子供じみた行為が冬真に不調をもたらしたのではないかと。しかし、冬真はうふふと小さく笑いながら言った。 「隣に座りたくなっただけ…ダメかな?」 おずおずと二人分のカップを持ち、先にソファーに座る冬真の右側に腰を落ち着かせると、冬真は再び俺の手を握った。 「葉祐、あのね…面白い話があるの…」 瞳をキラキラと輝かせ、そう言う冬真は本当に冬葉によく似ている。 「面白い話?」 「うん…未華子さんなんだけど…彼女…僕達のこと…歳の差カップルだと思ってたんだって…」 「お前は若く見えるし…よくあることだろう?」 「でもね…それにしても…っていうレベルだよ?」 「マジ?どれぐらい?」 「11歳。」 「えっー?!」 「彼女…真くんから二人は子供の頃からの付き合い…としか聞いてなかったらしくて…だから、僕達のこと、色々妄想してたみたい。でね…その設定がホントおかしいの。」 「どんな?」 「僕達は隣同士に住む、まぁ…幼馴染っていう感じ。葉祐は街で知らない人はいないっていうぐらいの…大人気のイケメン高校生…17歳。」 「はぁ?」 「勉強はちょっと苦手だけど…優しくて笑顔がとっても素敵なムードメーカー。男の子にも女の子にも人気があって、皆、葉祐のことが大好き。で、僕はその葉祐お兄さんに密かに憧れる小学一年生…6歳。病気療養のため引っ越しして来た僕は…偶然、窓から友達と楽しそうに歩く葉祐お兄さんを目撃するんだけど…お兄さんのその姿があまりにも眩しくて…それ以来、お兄さんの姿をこっそり窓から見るのが唯一の楽しみ、生きがいになるの。だけどね…ある日、それがお兄さんにバレちゃうの。」 「何で?」 「目が合っちゃうの。葉祐お兄さんはその時、初めて冬真君の存在に気が付くんだけど…お兄さんも…その…冬真君に釘付けになるの…」 「そりゃそうだろ!」 「えっ?何でって聞かないの?」 「そんなの聞かなくたって分かるよ。冬真君が絶世の美少年だからだろう?」 「うん…まぁ…その……通り…」 「それで?」 「お兄さんはどうにかして…冬真君とお話してみたいって思うようになるの。元々行動力があるお兄さんは…試行錯誤して…色々な作戦に打って出るの。そんなお兄さんの努力と念願が叶って、お見舞いに行けることになったの。それからというもの、葉祐お兄さんは、冬真君の家に足繁く通って、冬真君の両親からも厚い信頼を得る様になって…とうとう冬真君を預かったり、お留守番を任されたりするようになるの。そうやって、二人は徐々に親睦を重ね…それがやがて逢瀬になって…」 「なって?」 「冬真君が高校を卒業した日、葉祐お兄さんは…」 「は?」 「冬真君にプロポーズ。冬真君はそれを受け入れ…そして…」 「そして?」 「冬真君は葉祐お兄さんに…美味しく戴かれました…」 「はぁ?何じゃそりゃ!まるで…」 「まるで少女マンガの世界。うふふ。面白いでしょう?小説家志望でもあるし、本人の気質もあるかもしれないけれど…女の子って、面白いこと考えるなぁって。うちは男所帯でしょう?そんな風に劇的でロマンチックな発想をする人なんていないから…新鮮で斬新だった。僕ね…聞いている途中で…何度も紅茶噴き出しそうになっちゃった…」 「よく我慢出来たな。俺なら絶対噴いてるよ。」 「そんな斬新な発想をする彼女と…様々な話をしたの…本当にたくさん。冬くんが夢中になっている本の話やお菓子の話、真くんや直くんの話…それから…僕の両親のことなんかも。それでね、彼女と話しているうちに…物の見方や考え方は何通りもあって良いんだって思える様になって…不完全な物から完全な物が生まれることもあるって教えてもらって…そうしたら、ちょっとだけ穏やかな気分になって…少し楽になったの。例えて言うなら…すぅーっと一筋、風が通り過ぎて…それまでざわついていた僕の泉が…一瞬にして凪の状態に変わったっていうのが…近いかな。」 「……」 「僕はポンコツ。だけど…そのポンコツが…完全を生み出せる可能性を秘めている…だから僕は…顔を上げて…ちょっと前を見ても良いのかなって…」 「……ったく…ポンコツって言うな……」 「えっ?」 「俺にとっちゃお前は…何にも変え難い…完全無欠な存在だよ…」

ともだちにシェアしよう!