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消えた葉祐 #3 side M

現れたその人に、私達は釘付けになった。敢えて私達と言ったのは、隣にいるワイルドさんもきっと同じなはずだから。玄関からこちらに向かって伸びるポーチが一瞬、ランウェイに見えた。芸能人かモデルを彷彿とさせる容姿。ただ歩いてるだけなのに、とても華やかでオーラが半端ない。 ああ、真祐さんが言いたかったこと…今ならよく分かる。ホント言葉に表わすのは難しいね…真祐さん…… 『僕にはね、3人目の父と呼べる…いや、そう呼ぶべき人がいてね。僕は葉祐と冬真とその人と3人に育てられたんだ。とても優しい人でね。葉祐や冬真の代わりに学校行事も積極的に参加してくれた。とても嬉しかったけど、その人が学校に来ると、学校全体がざわついてね。ちょっとしたパニックが起こった。そんなんだったから、その後がめちゃめちゃ大変で…』 『どうして?』 『皆、釘付けになっちゃうんだよ。女性はもちろん、男性もね。お近づきになろうと皆さん必死。まずは手近なところからと、僕は恰好の標的になった。質問攻めはもちろん、お手紙やプレゼントの応酬…そういう行事の後は、落ち着くまで学校から走って逃げた。今もそういうのは続いてるみたいだけど、あの冬葉だからね。心臓強いし、上手くかわしてるみたい。』 『イケメンさんの悲しき性ってヤツですね?』 『イケメンか…その言葉はとても便利だけど、それでその人のことを語るには、かなりの無理があるかな。とにかく正統派なんだ…全てにおいて。会って話すと、なるほどなってなるんだけど…言葉で表わすのは難しいな。言葉を生業としているのにね。』 あの時、真祐さんはそう言って苦笑いしたっけ。 確かに…確かにこれは難しい。言葉で語るには難問中の難問。それにしても、どうして里中家の面々は、当事者はもちろん、それを取り巻く人々もイケメン揃いなんだろうか?今日会ったばかりのワイルドさんだって… 「こんにちは。遠いところまでありがとう。赤城君と矢島さんだね。はじめまして、藤原です。中で冷たい物でもどうぞ。」 そう言って見せた笑顔がとにかく心臓に悪い。これがホントの国宝級に匹敵するレベル。 通されたリビングは驚くほど広い。ソファーの前のテーブルの上には写真集や図鑑が広げられていた。花や宝石、海や森の風景などジャンルは様々。だけど、共通しているのは全部美しいということ。 「わぁ!キレイ!」 思わず口にすると、 「ああ、散らかしたままですまないね。それは、さっきまで冬真が見ていたものなんだ。」 「おじさまが?」 「ああ。」 「見せて頂いても良いですか?」 「もちろん。」 私は宝石図鑑、ワイルドさんは植物図鑑を手に取った。ペラペラとめくるページは、どれも美しいものばかりで、こういう美しいものを日々目にしている冬真さんは、毎日穏やかに過ごしているに違いないと確信した。思わずワイルドを見ると、ワイルドさんも私を見つめ、ゆっくりと頷いた。 「あの…冬真さんは?」 「ああ、先に言うべきだった。ごめん。今は昼寝をしています。夏はどうしても体力の消耗が激しくてね。さっ、それはもう良いかな?」 藤原さんは広げられていた書籍を1か所にまとめ、私達にアイスコーヒーを出した。私のアイスコーヒーにはバニラアイスが乗せられていた。 「えっ?コーヒーフロート?」 「好きなんでしょう?葉祐から聞いているよ。そのバニラアイスは恥ずかしながら、私の手作りでね。冬葉の大好物なんだ。」 「冬葉の?」 それまでずっと黙っていたワイルドさんが、急に声を発した。それを見て藤原さんは微笑んだ。本当に華やかで眩しい。 「甘い物が大丈夫だったら赤城君も是非食べていってください。レシピが必要なら後でお渡ししますよ。ちなみにチョコレート味にすると、冬葉は小躍りを始めますよ。」 ウサギ君の小躍り。容易に想像出来た。めちゃめちゃ可愛らしい仕草。ワイルドさんも同じだったのだろう。ワイルドさんはクスリと小さく笑った。 「ありがとうございます。是非お願いします。」 寂しい印象はどこか拭えないけれど、ワイルドさんの笑顔はキレイだった。この笑顔でバーテンダー…女性が放っておくはずがない。それにしても、イケメン二人をいとも簡単に笑顔にしちゃうウサギ君って、ホント最強!イケメン二人の笑顔♪眼福眼福♪ウサギ君に感謝だよ。 バニラアイスをひと掬い口へ運ぶと、芳醇な香りとさっぱりとした甘さが口に広がった。ああ、これは食材もこだわってるね。店を開いた方が良いレべル!いやいや、もはや本業の人なのかも。国宝級イケメンのアイスクリーム屋さんかぁ… めくるめく妄想に歯止めが掛からなくなりそうな頃、ワイルドさんが口を開いた。 「あの……葉祐さんはどうされているのでしょう?藤原さんは何かご存知なんですか?冬真さんは現在、会話が難しいようですが…大丈夫なんでしょうか?きちんと穏やかな日々を過ごしているのでしょうか?」 あっ!マズい!本来の目的を見失いそうだった…

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