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和臣の選択 #1 side K (Kazuomi)

翌朝、俊さんはひどく疲れた顔で帰宅した。心配した冬真さんが駆け寄ると、すかさず笑顔を作り、 「そんな顔をするな。葉祐は大丈夫。冬真の気の済むまでこちらにいて良いそうだ。」 そう言って冬真さんの頭をポンポンと軽く叩いた。それから視線を俺に移して、 「俺も歳をとったな。朝までとなるとさすがにキツイな。」 やはり笑顔で言う。作り笑顔。 「少しお休みになりますか?それとも何かお召し上がりになりますか?梅がゆでよろしければすぐにご準備出来ますが…」 「気を遣わせて悪いな。じゃあ、遠慮なく頂くよ。それと今日は仕事だったな?」 「はい。」 「申し訳ないが、時間の許す限り冬真のそばにいてやってくれ。」 「ええ。もちろん。」 「それから…こちらに戻るのなら迎えに行く。場所と時間を指定してくれ。」 「そんな!そこまでして頂くわけには…」 「いや、和臣がいてくれてかなり助かってるんだ。これぐらいしないとな。」 俊さんは笑顔を見せた。今度は作り笑顔ではない、右の口角を少しだけ上げる、彼独特のちょっとニヒルな感じの笑顔。 「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます。それと、管理事務所の真鍋さんがお話があるとのことなので、少し早めに出発して、そのまま職場へ向かいます。」 「分かった。」 「それから、もしよろしければこの後、領収証の整理しましょうか?」 「えっ?」 「大変失礼かとは思いましたが、ちらりと見てしまいまして…ちょっとお溜めになられているようでしたので。」 「参ったな…」 「俺を拾ってくれたオヤジさんが、いつ独立しても困らないようにと、経理のノウハウも叩き込んでくれました。領収証の整理なら冬真さんと二人、ゲーム感覚で楽しく整理出来そうな気がするんです。」 「だが、しかし…」 「誰かの役に立つことは喜びです。それが大切な人や、素敵な作品を生み出すことに繋がるのであれば尚のこと。ただ守ってもらうだけより、やりがいがあった方がここに来る楽しみも増えるはずです。ねっ?冬真さん。」 冬真さんはおもちゃのようにこくこくと何度も頷く。そんな冬真さんを見て、俊さんはまた、少しだけ右口角を上げて笑う。そして、俺の肩をポンポンと二度軽く叩いて言う。 「敵わないな。お前には。」 ☆赤城和臣が展開していくエピのタイトル表記を、今回より名前の方に変えさせて頂きました。

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