119 / 132

冬葉の選択 #1 side Y

ピンポーン 突然、インターフォンの音がリビングに響き渡った。時間は夜の6時半過ぎ。この時間帯、アポなしで我が家を訪問する人は滅多にいない。俊介さんや和臣君ですら必ず事前に連絡してくる。怪訝な顔の俺を案じたのか、冬真は俺の腕の中に滑り込み、少し身構える。強張った頬に一つキスを落とすと冬真は俺を見つめて、そして小さく笑う。ほら、美人の出来上がり。二人で玄関に出向き、扉を開くと意外な人物が飛び込んで来た。 「じゃ〜ん!ようすけパパ〜♪ただいま〜♪」 「えっ?ふっ、冬葉?何でぇ?」 「何でって···家に帰ってきただけだよ。あっ、とうまパパ〜♪ただいま〜♪」 冬葉は俺の隣にいた冬真に投げキッスを送る。冬真はくすりと笑う。 「おかえり、冬くん。ちょっと見ない間に背が伸びたみたい···」 「うん!すききらいしないで、ごはんい~っぱい食べてるからね!とうまパパはいつでもかわいいね!愛してるよ♪ちゅっ♥」 「冬葉、どうしたんだ?一人で来たのか?お景さんはここへ来ること知ってるのか?」 「知ってるよ。それに冬くん一人じゃないもーん!」 冬葉は振り返る。 「あれぇ?···あっ、いけない!とびら開けておくってやくそくだった〜」 そう言って、冬葉は慌てて玄関を開けた。積み重なった保存容器と紙袋で両手が塞がった真祐が入って来た。 「もぉ!冬葉ったら!ドア開けておいてって言ったじゃないか。これ結構重いんだからね!」 「ごめんごめん。」 「真!お前までどうした?仕事は?直は?」 「おしごとは今のところおちついていて、直くんにもちゃんと連絡したよ。それより、ようすけパパ、真ちゃんのお荷物持ってあげて。」 矢継ぎ早に質問をする俺を制するように冬葉か言った。 「ああ、ごめん。いやホント、これ結構な重さだな。中身は何なんだ?」 「おでんと焼おにぎりだよ。アケミちゃんの。」 「朱美さんの?朱美さんのところに行ったのか?ホント、お前たちどうしたんだ?」 「あのさ、ようすけパパ、わすれてるみたいだけど、冬くんはまだ小学生なんだよ?パパたちに会いたいよ〜ってなったっておかしくないでしょ?」 「それは···そうなんだけど···」 「帰りたくても一人で帰るって言ったらみんな心配しちゃうし···だから、真ちゃんにおねがいしたの。『おうちにつれてって』って。でも、とつぜんだったし、ぼくたちのごはんないかもしれないてしよ?だから、アケミちゃんのところに行ったの。さいしょは、真ちゃんと冬くんの分だけおねがいしたんだけど、おうちに帰るって言ったら、ようすけくんととうまちゃんにも持って行きなさいって言われてさ。で、この量になっちゃった。」 「そっか、お前たちも夕飯まだなんだ。一緒に食おう!俺達も夕飯これからなんだ。」 「わーい!家族でごはん、久しぶり〜」 冬葉は両手を広げ、家に上がった。真が続こうとした際、冬真は真の腕を急に掴んだ。 「「えっ?」」 いきなりの事で俺と真は驚いたが、冬真はお構いなしにしばらく真を見つめ、それから、無言で彼を抱きしめた。 「どうしたの?お父さん···」 最初こそ少し抵抗していた真だったが、途中で諦めた様に冬真の肩に顔を埋め、背中に手を回した。冬真は優しいリズムで真の背中をトントンと叩いていた。 「うん、うん。」 冬葉は頷きながら、どこか安心したような、何かを会得したような、随分と大人びた顔をしていた。 「良いのか?冬葉?」 「何を?」 「いつもなら『あ〜ん冬くんも!』だろ?」 「ようすけパパ···パパはいつでも『つうじょううんてん』だね。ぼく安心したよ。そんなパパが冬くんは大好きたよ♪」 両手を後ろで組み、顎を少し上に傾け、すまし顔で先を歩く冬葉は、やっぱり大人びて見えた。 「はぁ?どういう意味だよ。」 「べ〜つに。でも···やっぱり来てせいかいだったよ。さすがだね、とうまパパは。うふふふふ。さっ、ぼくたちはごはんのじゅんびだね!ようすけパパ!それが今のぼくたちの『じゅうようにんむ』だからね。」 冬葉はウィンクをしてみせた。

ともだちにシェアしよう!