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冬葉の選択 #2 side Y
「なぁ、冬葉?」
「うん?」
「お前···やっぱり·何か···あったのか?」
「何かって?」
「小学生が親元を離れて暮らしてるっていうのはかなりレアなケースだし、親に会いたくなることがあるっていうのは分かるんだけどさ···」
「うん。」
「俺はさ、お前がっていうのが解せないんだよ。」
「えーっ!ぼくだって小学生だよ?かわいいかわいい小学生♪」
「それは···そうなんだけどさ···お前、普段そういうタイプじゃないだろ?何かとてつもなく嫌なことでもあったんじゃねーかって考えちゃってさ。夕飯も何か食った気がしなくてさ···」
「ようすけパパ?」
「うん?」
「手···つなごう」
「ああ。」
夕飯後に二人だけで敷地内の温泉へ出掛けた。そこでの冬葉は至って普段通り。帰り道に繋がれた冬葉の手はまだ温かく、俺を少し安心させた。
「世の中にはさ、想像もできないすごい人がいてさ。」
「想像も出来ないすごい人?」
「うん。いろんなすごい人が、たーくさんいてね。その中でもぼくのそばにいるのは、とてもやさしい人。やさしすぎて人の痛みや悲しみを自分のことのように受け入れちゃうの。しかも、みんなに分からないように。びっくりだよね?そんないい人がいるなんてさ。でも、本当にいる。ぼくにはよく分からないけれど、きっと苦しいよね?そういうの。だけどさ、もっとすごい人がいるんだよ。その分かりづらい苦しみに、すぐに気が付いてくれる人がいる。」
「それって···」
「くわしいことは知らないよ。何も聞いてないし、それに、どんなことがあっても、ぼくには言わないだろうしね。だけど、多分そうなんじゃないかなと思ってさ。苦しいとき、だまって抱きしめてくれる人がいる。それを分かってほしかったんだ。だから帰ってきた。この選択がハズレだったらどうしようって、バスの中でヒヤヒヤしたけどね。」
「ドンピシャだったな。」
「まあね。」
「はぁ〜俺はダメだな···」
「なぜ?」
「何かあったのかとは思ったけど···まさか真祐の方だとは思わなかったし···」
「ぼくの方が小さいし、そう思うのは当たり前だよ。それに、ようすけパパはパパにしかできない一番大事なことしたじゃない?」
「えっ?俺?何もしてないぜ?」
「それだよ。全然気が付かなかったこと、普段どおりごはんを食べさせてくれてこと。全員が全員に気が付かれたら、もっと苦しくなる一方じゃない?帰って来づらくもなるしね。気が付かない人、気が付かないふりをする人も重要なんだよ。特に真ちゃんにはね。」
「お前······ちょっと会わない間に随分お兄ちゃんになったな。」
「もう、四年生だからね。」
「何があったか知らないけど、大丈夫かな···真のヤツ。」
「直くんにも言えないほどのことだったからね。ちょっと心配だったけど。」
「そうなのか?」
「多分ね。そうじゃなければ、ぼくにお電話しないでしょう?」
「あっ、そっか!」
「だけど、冬真パパがちゃんと気が付いてくれた。もう大丈夫!冬真パパはきっと何も聞かないい。それを聞いてしまうと真ちゃんがもっと傷つくのが分かっているから。何も知らなくても真ちゃんの傷をいやしてくれてる。真ちゃんが心地よいと思うやり方で。真ちゃんのことは冬真パパが一番分かってるから。」
「そうだな。あの二人はそっくり親子だもんな。あっ、冬葉も冬真に似てるよ。ああ···どこへ行った〜俺の遺伝子よ!」
「そうでもないよ。ぼくは自分ではミックスだと思ってる。ようすけパパにも似てるし、冬真パパにも似てる。もちろん、しゅんパパにも。」
「お前と俊介さんが?いやいやいや、どちらかと言えば両極じゃね?」
「そうかなぁ〜ぼくはパパたちとここが一番似ていますって、自信を持って言えるのがしゅんパパなんだけどなぁ。」
「例えばどんな?」
「そうだなぁ〜キレイなものを強く愛する気持ちとか?えへへへ。」
ああ···忘れてた···
コイツはそういうヤツだった···
年齢なんて関係なくて···
俺達が考えてるよりもかなり先を歩いてて···
めちゃめちゃ広い視野を持っていて···
どんな時でも頼りになる男なんだよなぁ···
っーかさ、お前のそばにいる『優しい人』ってお前自身じゃね?
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