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雨の日の冬真 #4 side K
誰かが何かを口にする度に沈黙が続く。聞きたいことは山ほどあるのに、その沈黙が怖くて、何も尋ねることが出来ない。それが少しもどかしい。
「せめて原因がハッキリ分かればなぁ···何を見てしまったのか、何を聞いてしまったのか、はたまた何かを思い出してしまったのか···」
医師は天井に見上げた。
「でも、あの家の中での起こったことだろ?少しは絞れるんじゃ···」
医師の言葉に対し、葉祐さんが縋るように言う。
「見聞きだけだったらね。何かを思い出したとなると無限だよ。葉祐と出会う前のことだったとしたら、もうお手上げ。冬真にはそういうのゴロゴロ転がってるしね。唯一の肉親であるお祖父さんとも伯父さんとも円滑な人間関係を築けてたって決して言えないし、叔母さんとはまだマシってぐらいだしさ。」
医師の言葉を最後にまた沈黙がやって来た。それでも、意を決して、気になっていてことを口にする。
「あの···先生?」
「はい。」
「冬真さんは今後どうなるのでしょう?やはり長期的な入院が必要なのでしょうか?」
「いやいや、脳波は異常ないものの、頭を打っている可能性もありますからね。まぁ、今晩一晩こちらで様子を見て、明日、再検査して大丈夫であれば、帰宅ということになるでしょうか。」
「今、冬真さんに会うことは出来ますか?せめて葉祐さんや俊さんだけでも。お二人の顔を見れば安心すると思うのてすが···」
「恐らくそんなに長い時間でなければ大丈夫だと思いますよ。もちろん、あなたもね、赤城さん。」
医師の笑顔に胸を撫で下ろす。
四人で冬真さんの病室を訪れる。手に巻かれた包帯以外、冬真さんの様子は普段と特に変らず、全員に笑顔が戻った。
「ごめんなさい···こんなことになってしまって。朝ご飯···食べてただけなんだけど···」
「大したことなくて良かったよ。」
葉祐さんが冬真さんの頬を何度も撫でる。冬真さんは少しくすぐったそうに笑い、俊さんを盗み見れば、先程まで軽く握られていた拳に力が入っていた。
本当はあんなことしたいんだろうな···
すぐさま抱きしめたいんだろうな···
ああ···この人はこんな風にずっと自分を押し殺していたのかな···
とても切なくて、何だかやるせないという気持ちになった時、病室の引き戸が勢いよく開いた。ツカツカと靴音を立てて入って来たのは、白衣を着た小柄の女性だった。
「岩崎!」
「岩代さん···」
『岩代さん』と呼ばれたその女性は、冬真さんの元へ直進するやいなや、ベッド脇に座る葉祐さんに向かってデコピンをした。
「あっ、痛っ!」
その場にいた全員があ然とした。
「本当はお前にデコピンしたいところだが、仕方ない。海野にしておく。どうた?気分は。」
「大丈夫。ごめんね···大袈裟になってしまったみたいで···岩代さんも忙しいのに···」
「思ったより顔色も良さそうで安心した。私は隣の建物から来ただけだ。何の手間もない。気にするな。私から見ればまだまだだが、この青二才はこれでも世間では名医らしい。お前は何も気にせず、コイツの言うことを守って養生すればいい。」
青二才と呼ばれた医師は、頰をポリポリと掻きながら言う。
「ごめんね、知らせるつもりは全然なかったんだけどさ、後でバレたら、俺の身に末恐ろしい事態が待ち受けるのわかるでしょ?許してくれるよねっ?ねっ?ねっ?」
それまでの態度とは一変、懇願する医師の姿はまるで子供のようだった。
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