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雨の日の冬真 #5 side K

「何と言うか···パワフルな···いや、その一言で片付けるにはあまりにも乱暴ですね。言葉にするのは難しい方です。」 「岩代さんのことか?」 「ええ。」 「ああしてずっと見守っているんだよ。冬真のこと。子供の頃から。」 「同級生だったんですよね?冬真さんと。」 「ああ。」 「垣内医師は···どういった関係なんですか?」 そこまで話したところで病院の駐車場に到着した。今日は葉祐さんだけが病院に泊まり、俺と俊さんは一旦自宅へ戻ることになった。 「俺か運転します。」 「いや、俺がしよう。和、お前は今日一日、付き添いや連絡、状況説明やら大変だったんだ。少し休んでくれ。」 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます。」 車に乗り込むと、俊さんは説明の続きを始めた。 「航は···アイツが16の時、冬真を連れ去ろうとしたことがあってな。それを葉祐に見つかって·、取っ組み合いになった。正にここの駐車場での話だ。冬真は知らない人から連れ去られそうになる恐怖と葉祐と航の取っ組み合いを見て、発作を起こし、倒れてしまったんだ。」 「連れ去りなんて···何故そんな···」 「当時のアイツはほぼ身寄りもなく、高校も中退したばかり。自暴自棄になってフラフラしていたんだ。だが、唯一、心を開く女の子がいてな。その子が冬真と知り合いだったんだよ。その頃、少し落ち込んでいた女の子に、冬真を会わせてあげたくて、来てくれるよう頼んだんだが、あの頃の冬真は人の会話を聞き取ることが今よりもかなり難しくてな。どうしたら良いのか分からず、ただ下を向いていたら、航は冬真に無視されたと勘違いして、実力行使にでたのさ。」 「ああ、それで連れ去り。」 「その時、葉祐と航の仲裁に入ったのが岩代さん。」 「なるほど。あの···気になることが···ほぼ身寄りがないとは?」 「航の家は父子家庭ではあったんだが、その父親か海外赴任中でな。家と最低限の生活費だけが与えられるだけの生活だったんだよ。それを見かねた葉祐が父親と相談して、後見人みたいな形で航を預かったんだよ。父親も再婚して、新しい命がもうすぐ産まれるっていう頃だったから、父親にしてみれば、渡りに舟だったのかもしれないな。」 「3人一緒に暮らしていたのですか?」 「いや、葉祐と話し合って、裏の海野のご両親に預けることにしたんだ。俺達どちらかの元にいても、一番教えたい家庭の愛情はなかなか伝わらないだろう?とは言っても、週末は一緒に過ごすことも多かったし、夏休みみたいな長期休暇になると冬真のケアを率先してやってくれた。助かったんだ、本当に。」 俊さんは懐かしそうに少し遠い目をして、穏やかな笑顔を見せた。その笑顔と裏腹の病室で見た俊さんの拳を不意に思い出した。葉祐さん、冬真さん、俊さん、3人で歩んで来た歴史の中で、ああして堪えなければならない場面は何回あったのだろうか。 「俊さん!」 「うん?何だ?」 「スーパー寄って帰りませんか?」 「どうした唐突に···」 「何だか無性にレモンチキンステーキが作りたくなりまして···お好きでしょう?」 「ああ。」 「それから···白和えも作りましょう!白和えもお好きですもんね。」 「本当にどうしたんだ?無理しなくていいんだぞ?」 「いいえ。本当に無性に作りたいんです。店の料理の試作も兼ねていますので、どうぞお気になさらず。」 「分かったよ。」 俊さん右の口角を少しだけ上げて車を発進させる。 メニューは俊さんの好物ばかり。 試作なんて嘘。 今日はあなたの好物をたくさん作ります。 あの時の拳··· あの時の我慢を密かに浄化させてあげたいだけ。 あの時の我慢を密かに褒めてあげたいだけ。 それだけです。

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