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早朝の出来事 #1 side N ~Naoki Sugano~
次の日、里中家は何もなかったかのように朝を迎えた。イケメンの方の親父さん、葉祐さんは普段と変わりなく明るく振る舞い、その横で冬葉が仔犬のようにじゃれついていた。しかし、俺と真祐は知っている。早朝、真祐の三人目の親父さん、俊介さんがやって来たことを。
物音が聞こえ、目が覚めた。隣を見れば、寝ていたはずの真祐の姿はなく、慌てて辺りを見渡すと、真祐は入口の扉にへばりつくように耳をあてていた。
「真?」
「しっ!」
真祐は小さく短くそう言って、人差し指を唇に当てた。俺も同じように扉に耳を当てた。すると、扉の向こうからくぐもったような話し声が聞こえた。声の主は葉祐さんと俊介さんのようだった。この部屋は玄関に一番近いから、二人は恐らく玄関付近で話しているのだろう。
「すみません。こんな時間に。」
「大丈夫。どうぞお気になさらず。それよりどうですか?容態は。」
「悲鳴を上げた後、しばらくは興奮状態でしたが、今は少し落ち着いています。ですが、熱がとても高いです。」
「航に連絡は?」
「ええ、念のため。すぐにでも救急車で病院へ来るようにと。しかし...」
「そんなことしたら、子供達が不安を感じてしまいます。冬真さんにとっては何よりも不本意です。」
「はい。特に真。真にはこれ以上、心配や迷惑を掛けたくないみたいです。」
「真は小さい頃から聞き分けの良い、我慢強い子でしたからね。」
「ええ。そうさせてしまったのは自分...そんな気持ちが拭えないのでしょう。冬真は。」
「全く...冬真さんって人は......ひとまず病院へ連れて行きます。」
「よろしくお願いします。これがいつものです。車の中で待機していてください。俺が車まで連れて行きますから。」
「了解しました。では。」
二人の会話をそこまで聞くと、真祐は立ち上がり、再度布団に戻った。俺もその後をついていき、隣に横たわった。
「なぁ、真...いつものって?」
「入院セット。入院になっても困らないように、必要最低限の物が入ってる。」
「そっか。ならないといいな...入院。」
「うん...ねぇ、直くん。」
「うん?」
「もう一度、手...握ってくれない?」
「良いけど...どうした?」
「安心したから......何か...とても安心した。こういうの...久々かも。」
「そっか。」
俺達は再び手を繋ぐ。
「ありがとう。これで...しばらく...立っていられそ......」
そこまで言った後、真祐は小さく寝息を立て始めた。それとは逆に、俺は眠れなかった。真祐のこと、冬葉のこと、冬真さんのこと、さっきの二人の親父さんの会話...それらが頭の中をぐるぐると駆け巡る。この家の人達は皆優しい。その優しさや相手を思いやる気持ちが、逆に真祐を傷付けているような気がしてならなかった。
俺は決意する。
真が...真祐が久々なんかじゃなく、毎日安心して眠れるように全力を尽くそう…と。
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