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天使の負傷 #1 side Y
「えっ...?冬葉が...ですか?はい...はい...ええ。分かりました。N大病院ですね。至急向かいます。」
冬葉が怪我をしたという幼稚園からの連絡は、休業日の間もなく正午になろうかという頃、突然もたらされた。通話のやり取りを聞いていた冬真は不安気にこちらを見ていた。
「ああ、大丈夫。俺さ、迎えに行ってくるよ。冬真は家で待ってて」
「ぼくも...」
「心配しなくても大丈夫。遊具から落ちたみたい。怪我自体はあざと引っ掻き傷らしいんだけど、念のため、CT撮っただけみたいだから。」
「ううん...ぼくも...行く。だって...ぼく...冬くんのお父さん。冬くん...ぼくの...たいせつな...むすこ...」
「そっか...そうだよな。分かった。じゃあ一緒に行こう。でも、外はまだ寒いから、温かい格好でな。冬真が風邪引いたら本末転倒。今度は冬葉がスゲー心配するだろうから。」
「うん。」
N大病院まで車を走らせる。途中、信号待ちで助手席に座る冬真を見ると、ズボンをぎゅっと握り締めていた。車を近くの路肩に停め、不安から随分と力が入ってしまっているその手を包み込むようにして握り、それからポンポンと2回軽く叩いた。冬真はまた不安げな瞳をこちらに向けていた。
「心配するな。大丈夫だ。」
「でも...」
「さっき、電話口でさ、先生の声と一緒に冬葉の声が聞こえたんだよ。何て言っていたと思う?」
「わからない...泣いてないといい...」
「『パ~パ!パ~パ!ふゆくんだよ!あれ?どっちのパパかなぁ?まぁ、いいや。パ~パ!』」
冬葉の真似をしながら電話口から聞こえたそのままを伝えると、冬真はクスクスと笑い出した。
「なっ、大丈夫だろう?」
「冬くんらしい。にてるね...ようすけに。そういう...おおらかなところ...」
「いやいやいやいや、純粋無垢、天真爛漫の天然天使くん、どう考えても冬真にそっくりだよ。」
「う~ん...」
「真祐だって、冬真に似てるよ。真面目でクリエイティブ、シャイでちょっと遠慮がち。それに、子どもの時から、ヒーロー物よりテディベアを愛する子ども。頼まれてもいないのに、地球の平和を守ってる冬葉とは大違い。」
「ううん...真くんは...ようすけに...にてる。やさしくて...しっかり者...せきにんかん強くて...みんなのため...いっしょうけんめい。」
「どっちにも似てるな。二人共。」
「うん...ぼくたちの...いとしい...子どもたち...」
「可愛くて、俺達をいつだって幸せにしてくれる......さっ、行こうか。うちの天使君が首を長くしてお待ちだろうから。『パ~パ!ふゆくん、パパまちすぎてクタクタだよ~アイスたべないと、ちきゅうまもれなーい。』」
再度、冬葉の真似をし、二人で顔を見合わせて笑った。それから、もう一度だけ冬真の手を握り、その後で車をスタートさせた。
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