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天使の主張 #2 side Y
真祐が冬葉に尋ねる。
「ねぇ、冬葉?今日の任務はどうだった?地球の平和、ちゃんと守れた?」
「きょうはね、あんまりまもれなかった…」
「えっ?どうして?」
真祐が少しオーバー気味に言う。
「ふゆくん、おさむくんにドーンってされて、びょういんで、もしもしだったの。ちきゅう…だいじょうぶだったかなぁ...」
「冬葉がいつも守ってくれてるから、貯金で大丈夫だったんじゃない?その証拠に、冬真パパが夕飯のお手伝いできるぐらい元気だもの。」
「パパ!」
冬葉はにっこり微笑んだ。冬真もそれを返すように小さく微笑んだ。
「でもさ、何でドーンってなっちゃったんだろうね?」
真祐がいよいよ確信をつく質問をする。
「う~ん...ふゆくんにもわかんない。」
「そっか。ドーンってなる前に理君と遊んだり、お話ししたりしなかったの?」
「おさむくんとはしてないけど、けんたろうくんとは、おはなししたよ。」
「どんな?」
「けんたろうくん、いつもいうの。『ふゆはんちは、ママがいなくて、パパがふたりもいるんだぜ!へんなの。』って。もう、いやになっちゃう!」
ひいっ!
冬真が小さく悲鳴を上げた。
家庭環境による差別的ないじめ...そんな言葉が頭を過ったのだろう。冬真も俺もいつかそんな日が来るかもしれないと覚悟はしていた。しかし、こうしてその問題が身近なものになると、目の前が真っ暗になった。この子達をこの問題からどうやって守ってやれば良いのだろう...
真祐が俺の横っ腹をつつき、我に返った。驚いて真祐を見ると、冬真の隣にいってやれと言わんばかりに俺に目配せをした。俺は慌てて冬真のそばに行き、背後からふわりと抱きしめた。冬真は俺の腕にぎゅっとしがみついた。
「それで?冬葉はいつもどうしているの?ケンカしちゃうの?ケンタロウ君と。」
「けんたろうくんと?なんで?」
「嫌なこと言われちゃうんでしょ?」
「いやなこと?う~ん...べつにいやなことはいわれないよ!」
「えっ?嫌になっちゃうって言ったじゃない?」
「ああ。ふゆくんがいやになっちゃうのはね、まいにち、おんなじおへんじしているのに、けんたろうくん、ちっとも、きいてないからだよ。しかも、ちがうっていってるのにさ。」
「えっ?えっ?えっ?ごめん。冬葉の言ってることちょっと分からないかも。ケンタロウ君にいつも言ってるように言ってみて。」
「だからね、ふゆくんちは、パパがふたりじゃなくてさんにん。ママはいないけど、みんなやさしいパパで、パパたちともしんちゃんともなかよしで ごはんもおいしくて、ふゆくんはまいにちたのしくて、うれしい!」
冬葉はピースサインをして、嬉しそうに笑っていた。家族全員が呆気に取られた。差別なんて関係ない。冬葉の思考はいつだって、想像よりも遥か斜め上にある。そして、いつでもこちらが考えているより先を歩いているんだ。そうだ...冬葉はそういう子だった。忘れてた...
「そしたらね、おさむくんがドーンって。」
「そっか...もしかしたら、理君は冬葉が羨ましかったのかもしれないね。」
真祐がそう言った。真祐の考えはあながち間違っていないのかもしれない。
「ふゆくん、ラッキーだから?」
「ラッキー?どこで覚えたの?そんな言葉。」
「しゅんパパがね、かぞくがだいすきだったり、まいにち、うれしいことやたのしいことがいっぱいあるとき、『ハッピー』っていうんだよって。でも、ふゆくんは『ハッピー』のほうからきてくれるから『ラッキー』かなって。」
俺と真は思わず唸る。
さすがは俊介さん!
的を得た良いこと言う。
「冬くん...」
冬真が冬葉の名を呼んだ。
「なぁに?とうまパパ。」
「ぼく...冬くんのこと...だっこ...したい...ようすけや...真くんみたいに...ぼく...できるかな...この手で...」
冬真は悲しそうに自身の手を見つめていた。
「パパ!ふゆくんとぎゅっしよう!」
冬葉は冬真の腕の中へ飛び込み、二人はしっかり抱き合った。
「とうまパパ!もう、えーんえーんしないで!ふゆくん、ごはんいっぱいたべて、はやくおおきくなるからね!そうしたら、ふゆくんがパパのことだっこしてあげる。それまで、ぎゅっでがまんしてね。」
冬葉は冬真の頭を撫でながらそう言った。
冬葉は俺の息子で、まだ五歳だけど...
スゲー格好いい男だと俺は思っている...
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