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天使の涙 #1 side Y
カランコロンと店のドアベルの音がして、その直後、パタパタと少し早い足音が聞こえた。
この音は冬葉の足音。
冬葉は幼稚園から帰って来ると、必ず店に立ち寄った。今日の幼稚園の送迎担当は冬真で、冬真が一人で送迎することは滅多になく、また、その際は交通機関を利用するので、冬葉は冬真が送迎してくれる喜びと、バスに乗れる喜びとで、昨夜は興奮し過ぎてなかなか寝付かなかったほどだ。
「おかえり~冬葉!」
彼を迎えようとカウンターからホールに出ると、
「ひっく...ひっく...パァ~パァ~わーーーん...」
顔を涙と鼻水で濡らした冬葉が、俺の元へ飛び込んで来た。
「どうした?冬葉?何があった?」
いくら尋ねても冬葉は泣きじゃくるばかり。
冬真...冬真はどうした!
「冬葉!冬真、冬真パパはどうした?」
『冬真』という言葉を聞いて、冬葉は更に大声を上げて泣きだした。焦るあまり、徐々に声を荒げる自分に気が付いた。このままでは冬葉は泣くばかりだ。逸る気持ちを抑え、冬葉を抱き上げた。それから人肌に冷ました温おしぼりで涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いてやると、冬葉は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「冬葉、冬真パパは?冬真パパはどうした?」
「ひっく...ひっく...しんちゃんと...ひっく...いっしょ...」
「真?」
「ひっく...うん。しんちゃん...おむかえきた...パパ...しんちゃん..ひっく...いっしょに...ひっく...かえった....」
「どうして二人で帰っちゃったの?」
「ふゆくん...かなしくて...ないちゃったから...とうまパパ、ふゆくんかなしませてごめんね。ふゆくんにげんきパワーあげたいけど、パパはふゆくんをかなしくさせちゃうから、ようすけパパから、げんきパワーもらっておいでって。でもね、とうまパパ、ぜんぜんわるくないの。」
「そっか。じゃあ...もうすぐ閉店だし、お店閉めたらパパにお話しできる?冬葉がどうして泣いちゃったのか。」
「うん。」
「その前に、冬葉が元気になるようにプリン出してやろうかな。」
「プ...プリン......?」
「うん。」
「そのプリン...パパプリン?」
「そうだよ。パパが今朝作ったやつ。お店の残り物だけどね。食べる?」
「うん。たべる!ふゆくん、パパプリンだいすき!おててあらってくるね!」
プリンという言葉を聞いて、冬葉の瞳はキラキラと輝きを取り戻した。天真爛漫な冬葉らしいと思わず苦笑した。何があったのか分からないけれど、あの様子なら、恐らく冬葉は大丈夫だろう。ケアが必要なのは案外、冬真の方かもしれない。考えてみれば、昨晩の園長からの電話の直後ぐらいから、冬葉の送迎を強く希望したりと、冬真の様子がおかしくなった。その異変を心配したのは、真祐も同じだったに違いない。だから、二人を園まで迎えに行ったのだろう。
それにしても...一体何があったのだろうか...?
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