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Pioggia #2 side N

「おい!真!」 「う...う~ん...」 一瞬、気を失った真祐だったが、俺の呼び掛けにすぐに意識を取り戻した。しかし、放心状態にあるのか、俺の声はあまり届いていないようだった。俺の腕の中にすっぽりと収まる真祐は、普段よりもとても小さく見えた。 「真?大丈夫か?まずはその濡れた服、どうにかしねーと...」 そのまま真祐を横抱きにし、脱衣場まで運んだ。雨に体温を奪われたせいか、真祐は弱々しく、ずっと小刻みに震えていた。脱衣場に置いてある折り畳みのパイプ椅子に真祐を座らせ、急いで給湯ボタンを押す。 「悪い。服脱がせるぞ。」 驚かせないように一枚一枚、ゆっくりと服を脱がせる。真祐はされるがまま、何の抵抗もしなかった。徐々に真祐の白い肌が露になると、俺の胸と体は、場違いにも高鳴りつつあった。 不謹慎だろ?こんなときに...何があったのか分からないのに... それに...これぐらいなら...今までだって見たことあるだろ?水泳の時間とか... いよいよパンツに手をかけた時、真祐は急に暴れ出した。その力はここへ来てからの弱々しい姿など微塵も感じられないほどだった。 「嫌だ!やめてー!」 「痛て!真!落ち着け!あ、痛っ!俺だよ!落ち着け!真!真!」 暴れる真祐の手や足をかわしながら、少し乱暴気味に両手で彼の頬に手を添え、目を合わせるように間近で顔を覗き込んだ。俺と目が合って、真祐は暴れるのを止めた。 「直...くん......?」 「そうだ!そうだよ!分かるか?」 「うっ...直くん...」 真祐は一筋涙を流した。俺は堪らなくなって、真祐を抱きしめた。 「真...何があったか知らないけどさ、まずはその冷えた体を暖めないと。風呂入っちゃえよ。先に髪や体洗ってさ、そうしてるうちに風呂も沸けるだろうから、ゆっくり温まれよ。俺は着替え準備しておく。下着は新しいのがあるけど、服は俺ので許してな。あーそれと、良かったら今日泊まって行けよ。うちの母ちゃん達、二人で旅行に行ってるんだ。明後日まで俺一人だから安心しな。おじさんには連絡しておく。ゆっくりしていけよ。なっ?」 「葉祐に...連絡するの...?」 真祐は少し躊躇いがちに俺を見詰めた。 「何だ...親子喧嘩かぁ?珍しいな...お前んちにしては。まぁ、いいや。俺が連絡しておくから、心配しないで風呂入ってこい。」 真祐は小さく頷いて、風呂場に消えていった。俺は自室に戻り、真祐を抱き上げた時に濡れた服を着替え、真祐の着替えとタオルを準備し、それらを脱衣場に置いた。再び自室に戻り、スマホを手に取った。ディスプレイを確認すると、『不在着信5件』と表示されていて、タップしてみると、それらは全て、真祐のイケメンの方の親父、葉祐さんからのものだった。 「何だよ...心配して探しているじゃねーか!アイツ、家を飛び出しちゃったのか?珍しいな...そういうタイプでもないのに...」 ディスプレイに表示されている『里中葉祐』の文字をタップした。程なく、葉祐さんの声が聞こえてきた。 『もしもし?直生(なおき)か?』 「はい。」 『何度もすまん。真祐...そっちに行ってないか?』 「来てます。ずぶ濡れだったから、今、風呂入ってる。」 『本当か?ああ...良かった...これから迎えに行くよ。』 「おじさん。」 『何?』 「よく分からないけど...真、ちょっと様子が変なんだ...」 『変って?』 「急に暴れ出したり...急に泣き出したり...」 『......』 「今日はうちに泊めるよ。俺んち、今日から母ちゃん達、旅行に行っててさ、明後日まで俺一人なんだ。俺んちで少し落ち着かせて、それから、そっちまで送ってく。そっちの方が今日の真には良いと思うんだ。」 『良いのか...?悪いな。』 「そんなこと言わないでよ。真とは付き合い長いし、それに...真とおじさん...冬真おじさんには恩義があるから...」 『幼稚園の時の...あれか?』 「まあ...ね。」 『何年前の話してるんだ。お前のせいじゃない。気にするな。』 「うん。まあ、俺じゃ頼りないかも知れないけどさ。遅くとも明後日には元気な姿で送るようにするから。」 『分かった。よろしく頼むな。詳しいことは俺にも分からないんだけど...恐らく...ショックだったと思うんだ...具合悪そうだったら、N大病院の...』 「垣内先生だろ?ちょっとでも具合悪そうだったら、必ず連絡する。それから、詳しいことが分かったら、おじさんに連絡するよ。おじさんはとにかく、冬真さんにバレないようにして…真の異変のこと。このこと、冬真さんが知ったら…絶対、冬真さんの方が具合悪くなるから…そんなの、真、一番悲しむからさ。」 『なあ?直生?』 「何?」 『いつもありがとな。真のそばにいてくれて...支えてくれて…』 葉祐さんが深々と頭を下げる姿が目に浮かんだ。 「オーバーだな。じゃあ、一度切るね…」 『ああ。よろしく頼むな…じゃあ。』 通話を切った後、俺はふぅ〜と一つ息を吐いた。そして、再度脱衣場へと向かう。 おじさん...ごめんな。 俺のはそんな崇高なもんじゃねーんだ... 立派なのは…真の方だよ。 幼稚園の時のあのときだって… 友達だからって…言ってくれた… だから…俺が言われることじゃねぇ。 俺はただ...真に惚れてるだけ。 惚れてるから...そばにいたいだけなんだよ…

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