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Pioggia #5 side N

目の前に座るじいちゃんを、真祐は『将吾おじさん』と呼び、二人の父親の友人だと紹介した。お茶を差し出すと、じいちゃんは手土産と称して、行列と予約の絶えない和食屋の弁当を手渡した。 「えっ?平塚庵の季節の弁当⁉本当にもらっても良いんですか?」 「どうぞ、どうぞ。お口に合うか分かりませんが...」 「合わないわけないよ。だって平塚庵だもん。」 「君は好き?平塚庵の味。」 「うん。大好き!だって、スゲー美味いもん。俺、母ちゃん達に食べさせてやりたいけど、俺のバイト代じゃ二人分までなかなか手出せないし、かといって、ランチと弁当はいつでも長蛇の列だし...じいちゃんもこれ買うのにスゲー並んだんでしょ?雨の中すみません。あっ、ごめんなさい。じいちゃん...じゃなくて...えっ~と...」 「あははは…じいちゃんで結構。あははは…」 「すみません。じゃあ、じいちゃんで。」 「はい。」 「じいちゃん...真だけ先に食べさせても良いですか?コイツ...家からメシも食わないでここまで歩いて来たからさ。」 「勿論です。直生君もどうぞ温かいうちに召し上がれ。」 「でも、じいちゃんのメシが...平塚庵の弁当の代わりに、俺の手作りチャーハンっていうのはさすがに申し訳ないよ。」 「僕のことは気にしないで。話をしたらすぐに帰るし、家で妻も待ってるしね。」 「じゃあ、頂きまーす。じいちゃん、ホントごめんね。真、お前も食え!食わないとお前、ぶっ倒れるぞ。」 「うん...」 真祐は弁当に付いていた箸の袋を丁寧に外し、それをじっと見詰め、大事そうにテーブルに置いた。それが気になって箸袋を見ると、桜が描かれていた。とても綺麗な絵だったので、俺も真祐の真似をして、それだけ別にし、テーブルの隅に置いた。真は少しずつ箸を進めた。それを見て、俺はホッとした。じいちゃんは俺達の食べる姿を嬉しそうに見ていた。 「ご馳走さま。」 「ご馳走様でした...」 二人で共に完食し、じいちゃんに礼を述べた。 「いえいえ。喜んでもらえて何より。じゃあ...真君、そろそろ本題に入るけど...良いかな?」 じいちゃんは居ずまいを正して言う。 「はい...」 いたずらが見つかって観念した仔犬のように、真祐は段々と小さくなっていった。 「じゃあ、俺、自分の部屋にいますから、終わったら声掛けてください。」 退出しようとした俺をじいちゃんが制した。 「ああ。良かったら、直生君もここにいてくれないかな。」 「でも...」 「葉祐君から許可をもらってるから大丈夫。それにね、僕は是非、君にも聞いてもらいたいと思ってる。君は信用出来るし、何よりこの子が一人で抱えるには重すぎるからね。」 「分かりました。それが真のためになるなら。」 俺の言葉にじいちゃんは頷き、そして...優しいながらも、真っ直ぐな眼差しで真祐を見詰め、静かに言った。 「お父さんの...冬真君の過去を知ってしまったんだね?」 真祐は項垂れるように頷いた。

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