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目眩 #2 side N

「大したことないよ。多分、疲れから来るものだね。さっき、本人からちょっと話を聞いたけど、ここ数日、食事も睡眠もあまり取れてなかったみたい。」 「えっ...ちょっと少ないかなとは思ったけど...普通に食べてたし...」 「葉祐兄ちゃんも知ってるだろう?真は良い子、良い子過ぎる。皆に心配させないよう、平静を装うぐらい造作もないんだ。実際は体が受け付けず、食事の後、人知れずトイレに駆け込んでいたみたいだね。」 「そんな..….」 「原因は頑として言わない。だから、今は薬の力を借りて少し眠らせた。点滴がなくなりそうな頃、また来るよ。」 「ありがとう。修君...じゃなかった...若先生。」 「あははは。子供の頃からずっと『修君』なんだ。そのままでいいよ。まぁ、『君』って歳でもないけどさ。」 住民から「若先生」と呼ばれている、診療所の医師の息子さんの方が頭を掻きながら笑った。 「しゅうくん......」 「ほらほら、そんな顔しない。真は大丈夫だよ。冬真兄ちゃん。」 若先生は不安げな冬真さんを抱きしめた。 「大丈夫。誰のせいでもない。冬真兄ちゃんがそんな顔していたら、真は心配で心配で、良くなるものも良くならないよ。分かった?」 「うん...」 「あーん。ふゆくんも!ふゆくんも!」 若先生は足元でじゃれついていた冬葉を軽々しく抱き上げた。 「冬葉、久しぶりだね。大きくなったなぁ。」 「うん。ふゆくん、もうねんちょうさんだよ。」 「そっかぁ!なぁ、これから修先生の家に来ないか?」 「いいの?」 「ああ。先生のパパとママがね、真と冬葉にいつも会いたがってるんだよ。真は具合が悪いから、冬葉だけでも来てもらえると、先生助かるんだけど。」 若先生は葉祐さんに目配せをした。多分、真を静かに休ませるための、先生なりの気遣いに違いない。 「ようすけパパ、ふゆくん、せんせいんち、おじゃましてもいい?」 「ああ。いい子でな。」 「やったー!ふゆくん、ごじゅんびしてきまーす。」 冬葉と葉祐さんがその場から消えると、若先生は冬真さんを左腕に収めながら俺の前に立った。さっきから冬真さんに対して、医師としては過剰な対応をするこの医師を俺は警戒した。 「君が菅野直生君だね?」 「はい。」 「はじめまして。私は天城修。別荘地診療所で医師をしています。そして、冬真の従兄弟に当たります。」 「従兄弟?」 「ああ。冬真の父親の妹が僕の母親なんだ。」 若先生は目の前に手を差し出し、握手を求めた。俺はそれに応じた。 「そうだ!良かったら君もうちに来ないか?」 「えっ?でも...」 扉の向こうで真が眠る、寝室に視線を送った。 「真なら大丈夫。恐らくあと三時間は眠ったままだと思うよ。何も取って食ったりはしないよ。ただ、君と話がしたいだけ。」 「話?」 俺は怪訝な顔で若先生を見つめた。 「あははは...そんな警戒しなくて良いよ。君とは将来、親戚になるかもしれないんだろう?将来の親戚と語らって、仲良くなるのも悪くない。いや…それは建前だな。あの真祐が選んだ人が、一体どんな人なのか知りたいっていう、野次馬的欲求の方が大きいかな。正直なところ。」 若先生は笑った。あまりの屈託のなさに、つられて笑ってしまう。 「ああ。君は随分と可愛らしい顔で、楽しそうに笑うんだなぁ。真が惚れたのも分かるような気がするよ。」 先生の言葉が少し照れくさかった。しかし、それを隠すように、事務的に返事をする。 「分かりました。冬葉と一緒に伺います。」 若先生はまた屈託なく笑った。

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