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gelosia #2 side N

「嫉妬...?」 「そう。」 「俺に?」 「ううん。自分以外の君を取り巻く全てにかな。引き金になったのは合コンの画像。ごめん。葉祐さんからさらりと話は聞いた。何故か自分に送られてきた画像。もちろん、真は君が送ったんじゃないって分かってる。でもね、その楽しそうに笑う君を見て、君と一緒に写る彼らに嫉妬した。最初は単純にヤキモチの気持ち。でも今は...そこから派生した不安…ってとこかな。」 「不安?どうしてですか?」 「素直に君に気持ちをぶつけてれば、こんなに拗らせることはなかったんだけど...真のことだからね...真面目に考え過ぎちゃったんだよ。『僕はこんな風に笑顔にさせてあげられないていない』とか、シャツを洗いながら、君と共に過ごすと、こんなことが日常茶飯事になってしまうのだろうか...とかね。」 「そんな...」 「無自覚そうだから言っておくけど...君、自分が考えているよりも人の目を引いて、相当モテるはずだよ。学生時代からの付き合いなら、真はそのことをよく分かっている。そこで真は、まぁ...彼の悪いところなんだけど、この一件から目を背けることにしたんだ。最初から見なかった、知らなかったことにしようって。もしかしたら、嫉妬の気持ちにもまだ気が付いていなくて、漠然と不安だけを感じているのかもしれない。それでも、真なりに何とか平穏を保とうとしたんだ。今まではそれで何とかやり過ごしていたんだろうけど、君の愛情を手に入れた今、そんなの無理に決まってる。ヤキモチを焼いたのなら、ちゃんとそういう素振りを見せていれば、こんなことにはならなかったんだ。でも…真にとっては至難の業のかな。」 「真は...繊細なくせに意地を張るところがあって...全然大丈夫じゃないのに、すぐに平気なフリしちゃうんだ。弁解ばかりに気を取られて、そのことをすっかり忘れてた。そっか...合コンの一件も、別に怒ってたワケじゃなくて、不安だったから話を聞きたくなかっただけなんだ。きっと。」 「さすが!よく分かるね。」 「付き合い長いし...」 「もう随分前になるけど...冬真が君のことを話してくれたことがあってね。その話を聞いて、僕は君に興味が湧いたんだよ。」 「冬真さんが?俺のことを?」 「うん。真の幼なじみで直生君って子がいて、明るくて素直で優しい、とっても元気な男の子。その子がそばにいるとね、真が珍しく素に近い姿を見せるって。冬真はそれが嬉しくて仕方がないんだって。とても穏やかな表情で自然に語りだしたんだ。元々多くを語らない人だったけど、後遺症で更に語らなくなった。だから、そういう冬真って結構珍しくてね。本当に楽しそうに君のこと、真や冬葉とのやり取りを教えてくれたんだ。穏やかで優しい時間だったよ。普通の家庭じゃ当たり前なんだろうけど、あの家でそういう時間を保つのは、なかなか難しい。冬真の心身は何がスイッチになって、何が起こるか分からないからね。もしかしたら明日、生を手放すことだって考えられる。」 「えっ...?」 「真はそんなギリギリの日々の中で育って来た。彼の根底にあるのはいつだって不安なんだ。どんな時でも多くの不安を抱えてる。表立ってそれが分かるときもあれば、何かに隠れている場合もある。」 「今回のように、嫉妬の裏側に...みたいな?」 「そう。身内を庇護するワケじゃないけど、そのことを頭の片隅に入れておいてくれないかな。不安を取り除いてやって欲しいなんて言わない。だけど、あの子を理解してやって、あの子の味方になってあげてくれないかな。勝手なお願いばかりで、本当に申し訳ないんだけど。」 そう言って丁寧に頭を下げる若先生に、俺は 「頭を上げてください。」 とだけ言い、それ以上は何も言わなかった。

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