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優しい人 #1 side S
「しゅんパパ!アイス!アイス!」
「分かった。分かった。まずは手を洗っておいで。」
「冬葉。はしたないよ。」
「う~」
冬葉は首をすくめ、しょんぼりと僕を見つめた。
「真。」
俊介さんは静かに首を振る。
「でも...」
「良いんだ。これぐらいしかしてやれない。」
嘘。
いつでも僕達のことを考えて、行動してくれるくせに。
「さぁ、冬葉。何味を作る?だけど...」
「ごはんをちゃんとたべたごほうびだよね!ふゆくん、チョコレートあじがいい!」
「分かった。今から準備するから、絵本でも読んで待っていなさい。真、君はどうする?寄稿の仕事が何本かあるのだろう?晩飯になったら呼ぶから、それまで仕事をするといい。その前にコーヒーだな。」
俊介さんはアイスクリームの準備とコーヒーの準備を同時進行で始めた。
「ううん。晩ご飯、僕が作るよ。一宿一飯の恩義でさ。こうして兄弟で押し掛けちゃっているし...」
「そんなことしたら、直生が君をここに寄こした気遣いが無駄になるだろう?急だったから、有り合わせでしか作れない。だから、気にしなくていい。」
これも嘘。
急な手作りアイスのおねだりにも即、対応出来るじゃない。
男の一人暮らしで生クリーム常備なんて普通、有り得ないもん。
「しかし...どうなんだ?容態は?」
「朝から微熱があってさ...意識がうつらうつらしていたんだ。ずっと。用心はしていたんだけど、一時間ぐらい前に突然...」
「とうとう聞いてしまったんだな。冬真さんの悲鳴...」
俊介さんは少し離れた場所で、絵本を読む冬葉をちらりと見た。
「うん。でも、直くんが機転を利かせてくれて...冬葉を直ぐに外に連れ出してくれた。」
「それでも、冬葉は動揺しただろう?」
「うん。でも、最初だけ。宇宙人が襲来した夢を見ちゃったってことにして、それを面白おかしく話したみたい。ここに来るまでの道すがら、冬葉から話を聞いたけど、もう、有り得ないほどギャグ漫画の世界だったよ。」
「直生らしいな。でも、こういう時はそういうのが一番有難い。」
「うん...」
冬真がさっき、突然悲鳴を上げた。
いつものように、冬葉は俊介さんに預けられたが、直くんは僕も冬葉と同行するようにと言った。表向きは急ぎの寄稿の仕事が複数入ったからという理由で、それは事実だったが、直くんがそう言った本当の理由は別にあって、恐らく僕を不安に、不安定にさせないようにするためだ。なぜなら、今回が、将吾おじさんの話を聞いてから初めての悲鳴だったから。
自宅から隔離された冬葉の生活を覗くのは初めてだった。今まで僕は、もっと切ないものを予想していた。しかし、それに反して、家での様子とあまり大差ないことにとても驚いた。それはきっと、目の前にいるこの人の努力が大きいから。
藤原俊介......僕の三人目の父親...
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