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先生、あのね
「佐々倉 くん、どうしました?ちっとも進んでいませんが」
「・・・ぅぅ」
現在、数学の補講中。
しかも補講対象は俺だけなので、先生と一対一 。
シルバーフレームの眼鏡をした先生は、穏やかで優しくて、数学教師なのに生徒から人気がある。
「解りませんか?」
「・・・はぃ・・・あんまり・・・」
「はぁー・・・」
正直に解らないと言うと、先生がため息をついた。
そしてゆっくりと眼鏡を外し、俺の席の前の椅子に座る。
「基 、お前やる気あんのか?」
先生、豹変。
だて眼鏡を外して素に戻った先生は、俺を呼び捨てにしながら、蔑むような目で見てくる。
素の先生は穏やかでもなく優しくもない、俺の従兄弟だ。
「ここ、今日の授業でもやったろうが。まさか、俺の授業で寝てたわけじゃねーだろ」
寝てなんかないっすよ。
起きてましたとも。
でも苦手なんだよ数学は。
「・・・こ、こうか?できた?」
「違う。何でそうなるんだ」
眼鏡を外した先生は厳しい。
できないとべしっと頭を叩くんだ。
この・・・暴力教師!
「・・・ぇー、ぅー、こぉ?あ、できた!?」
「はいはい、やっとできた。ほら次」
くぅ、できたら褒めろよ。
褒めて伸ばそうよ。
「ぁー・・・ぅー、こお?」
「そう」
「あ、できた!」
「やりゃあできんじゃねーか。赤点は趣味で取ってんのか?」
違います、断じて!
てか数学で赤点取ったのクラスで俺だけって、まじか・・・。
「あー、やっと終わったぁ」
「お疲れさん」
「・・・ねぇ先生、俺ってさぁ、褒めて伸びるタイプなんだよ?」
「あ?」
よく頑張ったな、エライぞ、とかさぁ。
一言褒めてくれたらモチベーションも上がるのに・・・。
でも、褒めるどころか、先生はあからさまに面倒くさそうな顔をした。
「馬鹿は褒めても治らねーよ」
「ひどっ!?」
何でそんなに俺に厳しいんだ。
皆にするみたいに優しく教えてくれりゃいいのに・・・。
「・・・何で俺ばっか・・・・・・」
「あ?」
「何でもないですーぅ」
余計な事言うと課題増やされそうだから黙っとこう。
そう思い、急いで鞄に荷物を詰めて帰る支度をしていたら。
「基」
「んー、なあに?」
ちゅ。
「んっ!?」
先生が俺にキスをした。
頬っぺたじゃなく、唇に。
「良くできました」
にやり、と笑って俺を褒める先生。
眼鏡を外した先生は、穏やかでもなく優しくもない、俺の従兄弟で・・・俺の彼氏。
「ぁ・・・ありがと、ございます・・・」
不意打ちのキスに真っ赤になりながら、俺はそう応えるのが精一杯だった。
先生はまた眼鏡をかけ、いつもの優しいキャラに戻る。
「では、お疲れさまでした。気を付けて帰ってくださいね」
「・・・・・・はぃ・・・」
先生、あのね。
優しい先生も好きだけど、意地悪な先生のが・・・俺は好きだよ。
俺だけが知ってる、先生だから。
end
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