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猫な君

「好きだよ、ハル」 「五月蝿(うるさ)い、黙ってろ」 放課後、夕暮れ。 もう部活も終わり、帰って行く生徒たち。 「好きだらかさ、一緒に帰ろう?」 「五月蝿いっつってんだろ」 西陽の射し込む図書室。 俺は頬杖をついて、目の前で黙々と本を読む恋人(って言うと怒る)に話しかける。 ハルは帰宅部なのに、バスケ部の俺を図書室で待ってた。 いや、ただ単に本を読んでいただけかもしれないけど。 「はーる、ハルちゃん、帰ろ?」 「五月蝿い、図書室で喋んな。迷惑だろ」 「俺たちしかいないよ?」 ずっと本に向いていた大きな目が俺の方を向く。 少しつり目がちな、猫みたいなハル。 「俺に迷惑だから」 きっぱり言われ、ハルの目は再び本へ。 ・・・いいよ、好きなだけ読むがいいさ。 今度は俺がハルを待つ番か。 「・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・か、ぇんないの?」 「ん?」 黙って待ってたのに、ハルが先に口を開いた。 ちら、と俺の方を見てくる。 「帰るよ、ハルが読み終わったら」 「・・・何で、先に帰れよ」 「恋人を置いて帰れません」 「・・・っ」 あ、怒ったかな。 でも事実だしね。 「べ、別に、俺は・・・待ってたわけじゃ、ないから」 「うん、本読んでたんだよね」 「別に、一緒に帰ろうとか、思ってたわけじゃな・・・」 「うん、わかってるよ。帰ろう?」 「・・・むかつく」 そう言って本を閉じる、可愛い恋人。 棚に本を戻し、立ち上がった俺の前を行くハル。 さらさらな黒髪が揺れてる。 ハル的には速歩き、俺には普通のスピードで、2人縦に並んで歩く。 途中ハルがちらっと振り返ったので俺が笑いかけると、ふいっと前を向いて、また歩くスピードを上げた。 まあ、俺には大した負担にはならないんだけど。 「ハル、そんなに急いで歩いたら転ぶよ」 「五月蝿い、転ばない」 あー何か、ぴんと立った猫耳と尻尾が見える。 幻覚か。 下駄箱でローファーに履き替え校門へ向かう。 もう日も落ちて薄暗く、少し肌寒い。 相変わらず俺の前を速歩きで行く猫、もといハル。 「ハル、転ぶぞ」 「転ばないって言って・・・っ!」 「・・・っと」 俺がからかうように声をかけると、イラっとしたのか歩きながら振り返り文句を言おうとしたハルだったが、やっぱり躓いて転びそうになった。 俺がすかさず手を出し、ハルの腰に回して支える。 「やっぱり転んだ」 「こ、転んでないっ!ちょっと躓いただけだっ!」 「俺がいなかったら転んでたろ?」 「そもそも、お前がいなければ躓く事もなかった」 ああ、それは確かに。 「はは、ごめんね?」 「手、放せ」 「はいはい」 ハルの細い腰に回した手を放すと、今度は普通のスピードで歩き出す。 俺の横に並んで。 ああ、可愛い。 抱っこはさせてくれないけど、撫でるぐらいならいいよ、みたいな態度の飼い猫みたい。 「ハル」 「・・・」 「可愛い、好きだよ」 「・・・馬鹿」 あんまりベタベタすると引っ掻かれるけど、それでも手放すなんてできない、可愛い恋人。 「ハル」 「・・・・・・」 「ちゅーしよう?」 「するわけねーだろっ!」 また歩くスピードを上げて先を行ってしまうハル。 ここで今、ちゅーはだめかぁ・・・。 「じゃあ、俺んち行ってちゅーしよう?」 「・・・・・・・・・別に、いいけど・・・ちゅーだけな」 実はちゅーが好きなハル。 2人きりだったら、もう少し撫でさせてくれるんだ、この猫は。 可愛い可愛い、俺の飼い猫。 end

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