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頑張れゆかりん
「ゆかりん、今日も可愛いねー」
「ありがとぉ~」
「ゆかりーん、今日の昼、一緒に食おうぜ」
「うん、いいよ~」
「ゆかりちゃん、コンビニの新しいスイーツ買ってきたから一緒に食べよう」
「わぁ、美味しそぉ~」
俺の名前は綾瀬 縁 。
クラスの皆には、ゆかりんとか、ゆかりちゃんとか呼ばれて可愛がられてる。
自分で言うのも何だけど、女の子みたいな顔で可愛いから、この男子校ではチヤホヤされてるわけだ。
でも貞操は守ってる。
何故なら、俺は身長182cm。
その辺の日本男子には、まさに高嶺の華なわけ。
にこにこしてれば皆優しくしてくれるし、危ないなと思ったら立ち上がって見下ろしてやれば、相手は戦意喪失する。
そうやって、俺なりに楽しい高校生活をエンジョイしてた。
それが、ある日・・・。
「留学から帰ってきた、桐生 巽 くんだ。皆、仲良くな」
突然現れた転入生。
さらさらな黒髪に切れ長の瞳。
か・・・格好良いじゃん。
いいなぁ、俺も格好良い男になりたかったのに。
なんでこんな女顔なんだ・・・。
「じゃあ席は・・・縁の隣だな。縁、面倒見てやれよ」
「・・・えっ、ぁ、は~い」
え~、面倒臭い・・・。
いやいや、ちゃんと面倒見ますよ。
それで俺に優しくしてくれるようになればいいんだし。
「ゆかり?」
隣の席まで来たイケメン転入生が俺の顔を見て首を傾げる。
「あ、俺、綾瀬縁っての。縁でも何でも好きに呼んでよ~」
「縁・・・可愛いな」
「・・・へ?」
ぃ、いきなりですか。
てか、あまりに真剣な顔で言われたから、いつもみたいに「ありがとぉ~」って流すタイミングを失った。
「ど、どぅも・・・」
何を照れてるんだ俺。
しっかり、いつも通り上手く接しなくちゃ。
「ぇえと、桐生く・・・」
「巽でいい」
「ぁ、た、巽くんは、教科書とかまだでしょ?俺の見せるから机寄せて・・・」
机をくっ付け、次の授業の教科書を出す。
・・・ぁ、あれ?
なんか、見られてる・・・?
ちらり、と横を見ると、やっぱり巽くんが俺を見てた。
「な、なに?」
「縁、美人だな。俺のものにならねぇ?」
「・・・はい?」
何言ってんのぉ!?
な、ならないならないっ!
俺は慌てて立ち上がった。
いつものように牽制するつもりで。
「ゎ、悪いけど、俺より身長の低いやつは無理だからっ」
しかし、巽くんも立ち上がり、俺の牽制は打ち砕かれる。
「俺の方が高いな」
「ぇ・・・えぇえ!?」
で、でかい・・・。
まさかの190cm超え!?
「で、でも・・・でも・・・っ」
「縁より身長が高ければ良いんだろ?俺は合格だよな」
「ゃ、ちょっと、待って・・・」
やばい、これはやばい。
こんな事態は想定してなかった。
どう回避すればいいんだ・・・。
ぁ、あれ、なんか巽くんの顔が近い・・・ち、近すぎ・・・っ!?
「ちょっと、ちか・・・んぅ・・・んん───っ!?」
ええええ~!?
ちゅーされてるううぅ~!
ひいいいぃ~っ!!
「んっ、む・・・ぷぁっ・・・はぁ、は・・・な、なにすんのっ!?」
「俺のものにする」
「はあ!?」
俺もびっくりだけど、クラスの皆もびっくりしてるよ。
先生も開いた口が塞がらない状態だし。
ど、どおしよう、このままじゃ、俺の楽しい高校生活が・・・。
「ぉ、俺は皆のものだから、巽くんだけのものにはなりませんっ!」
俺の勘違いアイドル的な発言に、クラスの皆も乗ってくれて、そーだそーだと俺を庇おうとしてくれた。
なのに・・・。
「あ?縁は俺のもんだ。文句があんならかかって来いよ?」
クラスの皆が黙ってしまいました・・・。
だ、誰か、ゆかりんを助けてくれる勇者さん、いませんかぁ~?
い、いませんか・・・。
「て事で、決まりだな」
「な、なにが・・・っ、んっ!?」
ま、またちゅーされたぁっ!
・・・ぅぅ、楽しかった高校生活はついに終わりを告げたようです・・・。
これからは、この巽くんをどう回避するか・・・ゆかりん闘いの日々に突入・・・。
to be continued
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