4 / 181
プロローグ(4)
島田は大袈裟に喜ぶと隣の青年の肩をひとつ叩いて「お帰りのタクシーを呼びますね」と席を立った。青年と取り残され、彩都は治まらない体の奥の疼きから気を逸らそうと、氷の溶けたアイスカフェラテをすべて飲み干した。そんな彩都の行動を相変わらず静かに彼は眺めている。
(まるで観察されているみたいだ……)
居心地の悪さに席を立とうとしたとき、一瞬早く青年のほうが椅子から立ち上がり、テーブル越しに彩都に向かって右手を差し出した。
「感謝します、七瀬博士。来週からよろしくお願いします」
差し出された右手と彼の顔を交互に見つめる。なかなか握手に応じない彩都に彼はほんの少し顔を傾けると、無表情だった顔にわずかな笑みを浮かべた。
(――、あっ)
また体が微かに震えた。彩都が慌てて右手を出すと、青年の手のひらが彩都の右手を掴んだ。
(大きな手……)
温かく包まれた手の感触に、じんじんと右手が痺れた。彩都は島田が戻ってくるまで繋がれた手が離せなかった。
「先生、タクシー手配できました」
島田の声に彩都は魔法が解けたように意識を取り戻すと、動揺を隠して素早く手を引いた。そして、ひとつ息をついて喉を絞って冷静に言った。
「これからよろしく。神代稜弥 さん」
ともだちにシェアしよう!