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第一章(11)
「採血はしなくてもいいよ。きっとあのときは体調が優れなかったんだ。あれからまったく何ともないし、このまま薬は続けるから」
「……そうか。じゃあまた来るからな」
どしどしと大股で研究室の扉へと歩いていた宣親は、なにかを思い出して振り向いた。
「ああ、忘れるところだった。神代くん、すまないが隣の部屋の机の上に、検体の入ったシャーレがあるから持ってきてくれないか。それにこの大学で勤める人間には簡易的な健康診断も必要なんだ。どうせだから今から病院に行って済ませてしまおう。先に車にいるから来てくれ」
言うだけ言って研究室を出ていった宣親を見送ると、稜弥は呆気に取られながら彩都を窺った。彩都は苦笑いで稜弥を見て言った。
「宣親は言い出したら引かないから。健康診断が済んで戻ってきてから、こちらのことは説明するよ。それとついでに、今まで宣親に貸している備品も取り返してきてくれるかな。それが君のここでの初めての仕事だね」
ふわりと笑った彩都から、微かに花の香りが漂った気がした。
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