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第一章(13)
提示したカードは『第二性証明書《SecondSexCertificate》』
アメリカ国民が成人するまでに義務付けられた、第二性と呼ばれる性別チェックの結果が政府により証明されている証拠だ。
「君は……、ベータなのか?」
舐めるようにカードを確認した宣親が、驚きの眼差しで稜弥を見た。
「はい。最初に検査を受けたのは渡米した十二のころです。そして十六と二十歳の計三回とも結果はベータ判定でした」
稜弥の告げた台詞に気難しい顔で両手を組んだ宣親が、むう、と唸った。
「どうしましたか。なにかその証明書に不備でも?」
「いや……。俺はてっきり経歴とその容貌から君のことをアルファだと思っていたんだ。まさかベータだなんて考えもしなかったから……」
宣親は、目の前に座る青年の姿をまじまじと観察する。
研究者にしては、その体つきは鍛え上げられた一流のアスリートのようだ。大柄な自分よりもさらに高い背丈に短く整えられた黒髪、そしてキリリと上がった眉。その双眸は未知への探究心に輝き、通った鼻筋に薄い唇はちょっとやそっとでは折れない強い意志を感じる。これだけ眉目秀麗なのだから『アルファ』だと言ってしまうと誰でも信じてしまうだろう。
ちょっと気を削がれたように呟いた宣親に、
「俺くらいの奴なんて向こうには掃いて捨てるほどいます。それに本物のアルファなら、いつまでも研究なんてことしていませんよ」
「君の周りにもアルファやオメガはいたのか?」
先ほどまでの態度はどこへ行ったのか、稜弥に対する興味を隠すことなく宣親が聞く。その裏表のない態度は稜弥には好ましく思えた。
「ええ、友人にいました。彼らは我々ベータとそう変わらないです。アルファはカリスマ性を備えていて優秀だし、オメガは三か月に一度の発情期はありますけど、馬鹿話もすれば恋にも悩む、課題ができなくて俺に泣きついてくるアルファの友人もいました」
「そうなのか。やはり、世間での認知度は高いんだな」
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