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第二章(4)

 稜弥がきびきびと動くと、床に積み上げてあった書物は魔法のように大きな本棚に整然と並べられていった。  経済学部の近くにある事務棟一階の学生食堂は、近隣住民も自由に利用できるようになっている憩いの場所だ。実験や論文作成で夜も遅くまで居残る学生のために、朝は七時から夜も二十四時まで開いていて、学食と言うよりもおしゃれなダイニングカフェに近い。ちなみに未成年で無ければ酒類まで提供している。  彩都は、この東條大学の学生だったころから朝昼夜と利用している。特に宣親が大学の経営に参加するようになってから、大学施設の改善が進んで学生たちには好評だ。 (神代くんと二人だけで食事……)  昼のランチを何度か一緒にしたことはあるが夕食は初めてだ。ランチ時は宣親も一緒のことが多いし、他の教授たちや職員から話しかけられたりして、そんなに彼を意識をすることは無かったが、なぜか二人でディナーと言うだけで彩都は今からそわそわしてしまっている。 (本当に僕はどうしてしまったんだろう……)  思わず手を止めて稜弥を見つめた。稜弥が重い本を本棚に入れる度に、腕に浮かぶ血管の筋やTシャツ越しの肩の筋肉の動きに目を惹きつけられる。彩都ではどんなに背伸びをしても届かない高さの棚に、すっと手を伸ばすだけでいとも簡単に届いてしまう姿勢の美しさは惚れ惚れするほどだ。  稜弥の動きを追っていた目が、不意にこちらを向いた稜弥の視線と重なった。 「……目を逸らされると傷つくとは言いましたが、そんなに見つめられると今度は恥ずかしいです」 「ごっ、ごめん!」  慌ててその場を立ち上がると、横に積み上げていた本のタワーに尻が当たって派手に倒してしまった。うわあ、とさらに慌てる彩都の姿に、とうとう稜弥は堪えきれなくて声を出して笑った。その笑顔が眩しすぎて、彩都はまた咄嗟に視線を外してしまう。  トクトクと脈打つ心臓辺りを稜弥に気づかれないように白衣の上から押さえていると、急に扉を隔てた廊下から賑やかな話し声が響き始めた。そして、研究室の扉が開くと、わっ、と数人の驚きの声がした。

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