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第二章(6)

「神代です。みなさん、よろしくお願いします」  すっと差し出した稜弥の右手を見て、みんなが目を丸くした。そしてすぐに亜美と由香里が飛びつくように稜弥と握手を交わした。 「握手なんて振る舞いも外国人みたい。帰国子女って本当だったんだ」 「あー、潤う~。いい男は鑑賞するだけでお肌がピチピチになりそう」 「亜美、実際にはそんなこと無いのよ?」 「わかってるわよお、気持ちよ、きもちっ」 「まったくお前ら節操ないな。ついこの間まで東條先生にキャアキャア騒いでたくせに。それにいい男なら俺もいるだろ?」 「孝治は花菜ちゃんのものじゃない。彼女持ちはアウトオブ眼中よ」 「ばっ! お、俺は花菜の保護者なのっ」  孝治と花菜の顔が同時に真赤になる。女子二人の指摘も満更ではないようだ。 「それよりも大掃除っすか? よかった、俺たちの片付けくらいじゃ七瀬先生の散らかし速度に追いつかなくて」 「わあ、先生の部屋、別の部屋みたいになってる。あとはこの状態を如何に維持するかですねぇ」 「久しぶりに床が見える面積が広がってるわね」 「もう、みんなやめて。それよりも夏休みはどうだった?」  話題を変えようと彩都が彼らに問いかける。学生たちは夏休み中に実家に帰っていたようだ。 「俺は実家の牛の世話の手伝いばかり。ここで実習しているのと変わりませんよ」  孝治と花菜は岡山、亜美は福岡、由香里は秋田に帰省していたようで、鞄の中からそれぞれに彩都への土産物を取り出した。 「みんなからの地元名産品のお土産はちゃんと調理してから先生に差し入れしますね。それとは別に先生にはご飯よりも好きなものを持ってきました」  由香里が提げていたコンビニの袋を彩都に差し出す。途端に彩都の顔がぱっと明るくなった。 「なんです、それ」  稜弥の質問に亜美と由香里がクスクス笑って、 「期間限定チョコミントアイス。七瀬先生は昔、アメリカで食べてからチョコミントがアイスのなかでも一番好きなんですって」

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