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第二章(7)
散々、学生たちに弄られたのに、彩都はうれしそうに採取した実験サンプルの入っている冷凍庫を開けると、いそいそとアイスクリームを納めた。
「七瀬先生って見た目と中身が違っていてびっくりしたでしょ」
いつの間にか隣に寄っていた亜美にこそりと耳打ちされる。少し潤んだ瞳で稜弥を見上げる彼女の大きく開いた襟ぐりから、明らかに香水とは違う匂いが微かに漂った。
「そうだ、今日の夕食はみんなで食べない?」
早速、スプーンと蓋を開けたチョコミントアイスを持った彩都が学生たちに提案する。
「神代くんの歓迎会もしていないし、君たちはここに住んでいるからこれからいろいろと彼と顔を合わせることになるだろうし、ほら、親睦を兼ねて……」
「先生、どうしたんですか? 先生がそんなことを言うなんて明日は雪になりそうっすね」
孝治の指摘にまた彩都はみんなに笑われたが、それでも稜弥と二人きりよりは気が楽だと、スプーンにすくったアイスクリームを照れかくしに口に運んだ。
夕食に向かった広い学生食堂はまだ休みの学生もいるからか貸切状態で、稜弥と彩都たちは食事をしながらいろいろな話をした。
最初こそは、それぞれに郷里に帰省した話をし、次にここ最近、学内で噂になっている稜弥のことに話題が移った。
「この時代、自由に外国に行き来なんてできないのに、帰国子女ってだけでポイント高いわよね」
「そうだよな、それにハーバード出だろ? 俺たちには観光で校舎を眺めることでさえできないよ」
「そんな秀才がこんなにかっこよかったら噂になるよね」
「それも、今まで女子の人気を二分していた七瀬先生と東條先生と三人でランチしてる光景なんて、萌えすぎてキュン死しそうだったって友だちが言ってたわよお」
稜弥と歳が近いからか、四人の学生は挨拶を交わしてからそう時間も経ってないのに、砕けた口調で話しかけてくる。もっぱら騒ぐのは花菜以外の三人で、花菜は孝治の隣で小さく頷くだけだった。
稜弥の隣に首尾よく座った亜美が、少し場が静かになったのを見越したように唐突にその質問を口にした。
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