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第二章(8)

「ねえ、稜弥くんってもしかしてアルファ? あたしはね、オメガなの」  歓迎会も兼ねているから彩都と花菜以外はビールも口にしている。亜美はすっかり慣れた様子で稜弥を下の名で呼ぶと、酔った勢いを逆手に稜弥にしなだれかかり、豊満な胸を腕に押しつけてきた。その質問内容と亜美の大胆な行動は、稜弥の対面に座る彩都の気分を重くした。 「亜美っ、いきなりなにを聞くのよっ」  由香里と孝治が慌てて亜美を諌める。花菜は怖がるように存在を小さくして、目の前に座る彩都の表情は稜弥には読み取れなかった。 「いいじゃない。アメリカはオープンなんでしょ? 国民全員にアルファやオメガの検査も義務付けているんだし、稜弥くんも検査は受けてるのよね?」  少し頬を膨らませた亜美に稜弥は笑顔を作ると、やんわりと亜美の体を自分の腕から引き剥がして答えた。 「残念だけど俺はベータなんだ。だから川根さんが期待しているような番の相手にはなれないよ」 「ええ~、そうなんだ。稜弥くんは見た目、絶対にアルファだと思ったのに」 「もう、亜美ったら。いくら自分はカミングアウトしているからって、こんなところで迂闊に口にしないで。それに亜美は同じ経済学部のアルファだって噂の斉藤先輩にアプローチされてるじゃない」 「あのヤリサーの斉藤? あれはアルファだって勝手に周りに言いふらしてモテたいだけで、本当かどうかもわからないわよ。それにうちの学生のアルファなら東條先生が全員把握してるでしょ」  由香里が誰もいない周囲をそれでも気にしながら小声で怒っている。そんな由香里の怒りなどまるで亜美は気にせずに、 「あたしたちは発情期の度にあの研究棟の自分の部屋から出られなくなるのよ。稜弥くんは七瀬先生の助手だから、いつも先生の側にいるし研究棟にも出入りするんでしょ? なら、変に勘繰られる前に自分たちの正体を明かしておくほうが安全だわ。あたしは由香里や花菜とは違って、オメガであることに後ろめたさを感じていないもの。それよりも早く優秀なアルファに見初められて楽になりたいの。少しでもアルファだと思える人にはがんがんアプローチしないと、意に沿わない見知らぬ男に突然襲われるなんて、もうごめんよ」

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