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第二章(12)

「おやおや、スゴい嫌そうに聞こえるなあ。曲がりなりにも血縁ってことなんだから、少しは頼りがいのあるお兄さんとして俺を扱ってくれないかなあ」  なにが楽しいのか、ケラケラと笑いながら島田が囃子たてた。 「こんな時間に何の用だ。まだ、俺はあんたに報告できることは何もない」 「うーん、わかってるよ。君たち科学者と俺たち一般人の時間の流れが違うことなんてね。君たちは長い時間をかけて一つの真理に迫っていくんだものねえ。だけど、俺のボスも君の父上も一般人だからね、早く答えを知りたいんだよ。ちょっとはそこのところを理解して動いてくれるとありがたいなあ」 「……俺はこの二週間、あんたのおかげで彼らの警戒を解くのに余計な時間を取られたんだ。あんた、一体なにをした? 東條宣親はかなりあんたを毛嫌いしているぞ」  あちゃー、と島田の大袈裟な声がした。 「君はもう会ったかな? 東條先生が飼っているオメガ三人娘。そのなかで一番おっぱいがデカイこがいるだろ? 亜美ちゃん、だったかな。ちょっとあの子の発情期の残り香に理性ぶっ飛んじゃってさ。でも仕方ないよね、俺はゼロ世代とはいえアルファだから」 「……よく、東條先生に殺されなかったな」 「そこはほら、ぼくちゃん、お口が上手いんで。俺はベータだって触れ込みであそこに出入りを許されてるから、亜美ちゃんによく似た彼女に振られたばっかりで、寂しくてついフラフラっと、とか言ってね。それに亜美ちゃんも満更じゃなかったしさ。ま、土下座しまくったし、涙流して謝りまくって、東條先生の足蹴りもくらったところで、七瀬先生が助けてくれたんだよね。いやほんと、優しいよね七瀬先生は」 「……最悪だな、お前」  呆れた稜弥に島田は面白そうに笑うと、 「でもさ、稜弥くんこそ大丈夫なのかな。俺のようなゼロ世代とは違って純粋なアルファの稜弥くんには辛いんじゃないの、あそこの空気は」 「余計な心配は無用だ」 「ふーん。アルファアカデミーを首席で卒業すると、そんじょそこらのオメガの誘いには乗らないってことか。それともトクシゲが扱う薬よりも良い抑止剤でも使ってんのかなあ」

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