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第二章(13)

「……それ以上、無断話をするのなら切るぞ」  冷たく言った稜弥にスマートフォンの向こうの島田が、ちょっと待って、と慌てて止めた。 「せっかちだなあ。そんなんじゃ、良い研究者にはなれないよ」 「お前こそ早く要件を言え」 「ハイハイ。実は東條製薬が近く厚生労働省に、オメガフェロモン抑制剤の部分使用許可を申請するらしいんだよね」 「どう言うことだ?」 「女には充分効果があるし、男に対しても治験で良い結果が出てるから、先に女用の使用を認めてくれってことさ」  東條製薬は抑制剤の段階的認可を政府に要請するのだと言う。 「もう君のオトウサマ、怒り心頭だよ。お陰で俺は八つ当りされてグロッキーなの。何とかしてよ、君」 「知らない。それにあいつは俺の父親でもなんでもない」 「またまたぁ。トクシゲ化学薬品の徳重剛造(とくしげごうぞう)社長は君のお母さんの再婚相手でしょうに。血が繋がっていないとはいえ君は自慢の息子みたいだよ。二言目には、稜弥は第一世代アルファのなかでも特に優秀だ、って」  気持ち悪さに稜弥はスマートフォンを壁に投げつけそうになった。その無言の怒りが伝わったのか島田は「あ、脱線してゴメンね」とのたまった。 「徳重社長の政治家への多額の献金が効いてるから、今日明日にも認可ってことにはならないけどさ。でも東條財閥が本気出したら、きっとあっという間に流通が始まるじゃない? それに保険適用されちゃうと日本の抑制剤はすべて東條製にとって変わられる。日本での莫大な儲けが無くなるのは、俺のボスも徳重社長も嫌なわけ。なので今のうちに手を打ちたいんだけど、男性オメガ用の治験データのほんの一部でも手に入らないかな?」 「そんなの無理に決まっているだろう。お前こそ、半年も探っていたのに入手できなかったのか?」 「東條製薬は鉄壁のセキュリティを誇っていてね。いくら俺が優秀でもなかなか」 「ハッ、産業スパイのくせに泣き言か」

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