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第三章(5)
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「うわあ、どうしたんですか二人とも」
頭からずぶ濡れになり、稜弥とともに震えながら部屋に入ってきた彩都の姿に、三人娘はそれぞれ手にお菓子を摘まんだまま、あんぐりと口を開けた。
「酷い雷雨にあったんだ。川根さんたちは分からなかった?」
「この部屋は視聴覚用で外の音が聞こえにくいから。ちょっと待ってて先生、タオル持ってくるね」
ぱたぱたと亜美と由香里が走りだし、残された花菜はおろおろとしている。その時、開け放たれた入り口から廊下を伝って、ドンと大きな雷の音がして花菜が小さく悲鳴を上げた。
「ほんとに酷い雨だわ。よく帰って来られましたね」
タオルを持って戻ってきた亜美と由香里が外の様子を気にしている。
「でも先生、途中で腰を抜かさなくてよかったですね。雷、苦手なのに」
「……平気だよ、このくらいなら」
亜美の台詞に顔を赤くしながら髪を拭いていると、彩都の荷物を隣の研究室に仕舞いに行った稜弥が戻ってきた。
「ありがとう神代くん。写真集は濡れなかった?」
「七瀬先生の機転のお陰で大丈夫でした。でもタブレットはちょっと微妙ですね」
雨が酷くなる前に貴重な写真集だけは守ろうと、彩都は防水仕様のタブレットケースに写真集を仕舞っていた。
「それよりもみんな、ここでなにをしていたの?」
視聴覚室と呼ばれる室内のテーブルには、ポテトチップスやチョコレート、ロールケーキに紅茶やジュースのペットボトル、そして壁の六十インチのモニターからは、金髪の見目麗しい男女の映像が流れていた。
「巷で人気の海外のドラマを視ながら女子会してたんです。神代くんがこの部屋を片付けてくれたからモニターが見られるようになったし、大きな画面で鑑賞してみようって。駄目でしたか?」
「いいよ。この部屋は他の大学とのテレビ会議用に宣親が作ってくれたんだけど、全然使ってなかったから。それよりもこのドラマ、そんなに人気なの?」
残念ながら彩都は普段からテレビに興味が無いから世間の流行りに疎い。それに海外の俳優なんて余計に判らない。
「この役者、見たことあるな。確かハリウッドで人気のアルファの俳優だ」
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