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第三章(7)
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彩都がオメガだと判明したのは二十歳のころだ。
ひとりで暮らしていたアパートに夜遅く帰る途中で突然、見知らぬ男に襲われたことが発端だった。偶然、宣親が用事のために訪ねてくる道筋での出来事で、助けられて事なきを得たが、彩都を襲った男は、たまたま立ち寄ったコンビニで初めて彩都と会ったと言っていた。宣親に警察に突き出された男は茫然自失で「彼からなんともいえない良い匂いがしたんだ」と呟いていたという。犯罪歴もなく身形もよい、愛妻家で子煩悩な一流企業のサラリーマン。それが彩都を襲った男の本来の姿だった。
その一件ののち、一ヶ月の間に彩都は同じことを何度か体験することになる。相手は見知らぬ者ばかりではなく、他学部の教授だったり、同じ講義を取っていた学生だったりした。そしていつも間一髪で宣親や友人たちに助けられたが、彩都はすっかり外が怖くなって、家から一歩も出られなくなった。
彼らが一様に言ったのは、彩都とすれ違った瞬間、初めて嗅いだ香りがした、というものだった。その匂いを認めた途端、抗い難い程の劣情が吹き出し、気がつけば彩都を追いかけ組み敷いていた、と彼らは口を揃えて言った。
家に隠る彩都に次の異変が起こったのはすぐだった。それまで彩都は性的なことには奥手で、女性と付き合ったことはなく、性行為も未経験だった。なのになぜか彼らに襲われた場面を夢に見るようになった。その夢では宣親が助けに来ることはなく、彩都はそのまま彼らに蹂躙されて、そして最後は自ら嬉し涙を流しながら彼らに突かれ続ける、という淫らな夢だった。
現実はあんなに恐ろしく体の震えが止まらなかったのに、何度か同じ夢をみるうちにとうとう夢の中の彩都は、自分から彼らに体を開き扇情的な瞳で彼らを煽り、そして彼らの熱い杭を受け入れてもなお、まだ足りないと彼らに跨がり腰を振った。その獣のような姿に悲鳴をあげて飛び起きると、今度は夢ではなく現実の堪えがたい欲望と、それに呼応するかのような体の変化が彩都を襲った。
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