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第三章(9)
(足りない! こんなのじゃ全然足りない。もっと激しく突かれたい。もっと奥まで叩きつけて。もっと大きなもので、もっと太いものでもっと硬いもので……っ! そして、そしてっ!)
「あっあっあっ、ああああ――ッ!」
「彩都っ!」
「うわあっ、ひあああっ!!」
「彩都っ、彩都、しっかりしろっ」
連絡が取れない彩都を心配して訪ねてきた宣親が、アパートの扉を蹴破って入ってきた。宣親の顔を目に写して、彩都は何度目かわからなくなった絶頂を迎えた。汗と涎まみれの顔と体はさらに精液と蕾から流れ出す体液に汚れて、ひゅうひゅうと肩で息をする彩都の姿を宣親は呆然とその場に立ち尽くして眺めていた。
(こんな姿、宣親に見られたくない)
羞恥と情けなさで死にたい程なのに、慌てて横たわる彩都に近寄り、汚れた体を抱き起こしてくれた宣親に無意識に放った台詞に、彩都は自分自身に絶望した。
「宣親、助けて、助けて……。お願い宣親、……僕を抱いて。めちゃくちゃにして……」
あれから普通の恋愛や結婚なんて自分には幻だと思って過ごしてきた。
錯乱する彩都の願いを聞き入れて、宣親はその場で彩都を抱いてくれた。思えばそれが彩都の初めてのセックスだった。一昼夜、彩都の止まらぬ欲情を宣親はすべて受けとめてくれた。最後には気を失い、次に目覚めた時には東條大学医学部附属病院の一室に寝かされていた。
あの脳を焼く欲情はまるで最初から無かったように治まっていた。ただズキズキと痛む下半身と倦怠感、そして身体中の至るところに残された左胸にある桜斑と同じ程、鮮やかな宣親の痕跡に彩都はベッドの上で涙を流すしか無かった。
宣親から詳しく調べた方がいいと勧められ、そのまま入院して体中の至るところを検査された。そしてすっかり落ち着きを取り戻し、肌の吸い痕もわからなくなったころに、当時脳外科の研修医だった宣親と心療内科医、そしてなぜか繋がりの感じられない産婦人科の医師から、自分がオメガという性であることを彩都は告げられた。
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