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第三章(10)

 最初は三人がなにを言っているのかまったく理解できなかった。人間に発情期があり、男が子を孕むことができるなど、どう考えても荒唐無稽で彩都は思わず笑ってしまった。  しかし沈痛な面持ちの宣親と憐れむような二人の医師の視線から、自分の体の異変が急激にオメガ性へと変化しているからだとわかると、あまりの衝撃に口が利けなくなってしまった。 「アルファとオメガという新しい概念の性を持った人々は、主に桜斑病サバイバーの子供たちから生じます」  致死率九十パーセント以上の桜斑病ウイルスに冒されながらも奇跡的に助かった人たちがいる。彼らの体内にできた僅な抗体のお陰で桜斑病ワクチンが開発され、人類は絶滅の危機を逃れた。彼らはサバイバーと呼ばれ、桜斑病の危険が完全に無くなるまで医療機関の監視対象となった。そして、彼らの子供たちのなかに生まれながらに桜斑病のウイルスを持つ者が出てきた。これが桜斑病キャリア、その大半は発病することなく成長していくが、彩都は母親の胎内で桜斑病を発症した。  白を基調としたカンファレンスルームに寒々とした産科医の説明が響く。 「サバイバーは一様に遺伝子配列のある一部に異変が生じます。そして子供たちはその異変を優勢遺伝子として引き継ぐ。遺伝子配列が増えているのがアルファ、欠損しているのがオメガとなります。アルファやオメガの特性は先ほどご説明した通りで、七瀬さんの場合はゼロ世代と呼ばれます。特に七瀬さんはご両親共にサバイバーだと言いますし、ご本人も母親の胎内で桜斑病を発症している。生まれながらにキャリアでありサバイバーであるのは、日本はおろか世界的にも非常に珍しい例です。普通、二次成長期にオメガ性の人たちは発情期が始まりますが、七瀬さんは自身の持つ桜斑病ウイルスが何らかの形で作用して、今まで気がつかずに過ごしてこられたのだと推測されます」  まるで興味のない映画を無理矢理に見させられているように、話の内容がまったく頭に入ってこない。

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