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第三章(11)

「ゼロ世代のなかには、アルファやオメガの特徴がはっきりと出ない人もいます。発情期を迎えても少し頭痛や火照りを訴える、ようは更年期障害に近い状態で軽くすむんです。しかし、第一世代と言われる、ゼロ世代のアルファやオメガから生まれた子供は顕著に特徴が出ます。日本ではまだ認定方法が確立されていなくて、当医院もつい先日、最新の検査キットをアメリカから取り寄せました」 「その最新の検査で、僕はオメガだと判定されたんですね……」  呆然と言った台詞に目の前に座っていた宣親が「彩都」と声をかけた。それは普段から聞き慣れている声なのになぜかうなじをすう、と撫でられた感じがして彩都の体がぞくりと震えた。 「……オメガの症状とはどういったものなんですか?」 「症状、と言ってしまうのには語弊があります。あくまでもこれは今まで知られている範囲内ですが、約二ヶ月から三ヶ月の周期で発情期が来ます。その期間は約一週間程の続き、その間、オメガは特殊なフェロモンを出して周囲に受精が可能な状態を知らしめます」 「受精って……。それじゃまるで男でも妊娠できるみたいな言いかたですね」 「……妊娠、できるんです。それがオメガの一番の特徴です。オメガはようは子孫を残すことに特化した存在なんです。検査の結果、七瀬さんの直腸の奥にも子宮が確認されました」  彩都は思わず下腹に手を当てた。自分の体内に本来あるはずの無い臓器が存在している。そう意識するとまるで呼応するように、その臓器がひとつ鼓動したような気がした。あまりの現実離れをした話に彩都の意識が遠のいていく。 「彩都。実はうちの医学部は以前から、第二性受け入れの基幹病院として密かに研究が行われていたんだ。ここ最近のお前に起こった出来事も申し訳無いがモニターさせてもらっていた。ほら、俺がお前に処方した精神安定剤、あれは実は海外で主流となっているオメガフェロモン抑制剤だ。だけどお前は酷い拒絶反応を起こしたから……」  最初に襲われた時、気分が落ち込む彩都に宣親は確かに薬を渡してくれた。でもそれを飲んだ途端に、酷い吐き気と動悸に襲われて飲むのを止めていた。

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