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第三章(12)

「じゃあ、宣親は知っていたの? 僕がオメガだってこと……」 「確率として疑っていた。でも本当に彩都がオメガだと判明して、実は俺も戸惑っている」 「抑制剤が効かないと僕はどうなるんですか?」  医師たちは隣の宣親と意味深なアイコンタクトを取ったあと、 「三ヶ月周期で今回経験されたことが起こります」  彩都の背中に冷たい汗が伝う。きっと彩都を襲った男達はみんな、彩都のフェロモンの匂いに当てられてあんな行動を起こしたのだ。妻思いの子煩悩なビジネスマンが、温厚で学生に人気のあった教授が、彩都と席を並べて学んだ同級生が……。みんな、彩都の発する牡を求める匂いに狂わされてしまったのだ。  そして自分では抑えきれない体の疼き。あの時の自分は確かに誰かに抱かれたいと思った。抱きたいではなく抱かれたい。それは孕みたいという本能の囁き。 「あの、何とかならないんでしょうか。別の薬とか、手術で子宮を取る、とか」  彩都の切羽詰まった質問に医師たちはまた宣親と顔を合わせた。そしてなにかを明らかに言い澱んだのちに重たく口を開く。 「今現在の一番の方法はパートナーを見つけることです」 「パートナー?」 「特にアルファを相手として関係を作ります。まだそのメカニズムはわかっていませんが、アルファに性交中に首の後ろを噛まれるとそのアルファにしか発情しないという研究報告があります。その関係は『番』と称されて……」 「彩都、大丈夫か」  椅子から崩れ落ちそうになる体を何とか支えて座る彩都に、宣親が肩に手を沿えて問いかけた。ゆるゆると見上げて彩都は顔を歪めた。 「宣親。僕はもう普通の生活はできないんだね。三ヶ月に一度、一週間もあんな動物みたいな状態になるんだ」 「彩都……」 「それにきっと発情期の間だけじゃないんだろう? 僕の体からは普段から他人を誘う匂いが出ているんだ。その匂いに彼らは惑わされて……。僕は被害者ではなく加害者だったんだ」 「それは違う、お前は何も悪くない」 「でも現に僕は他人の人生を滅茶苦茶にしたッ!」

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