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第三章(13)

 頭を抱えて机に突っ伏した。何度も固い机を叩く彩都の右手を、宣親は力強く握って止める。 「薬も効かなくて発情を迎えるなんて考えるだけで気が狂いそうだ。発情するときっと僕は誰彼構わずにあんな痴態を晒してしまう。そんなの嫌だ、嫌だ!」 「落ち着け、彩都」  宣親が暴れる彩都の肩を強く抱きよせた。 「きっと今回は初めての発情で制御が効かなかっただけだ。抑制剤も少しずつ慣らしていけばいい。そうして社会生活を送っているオメガもいる」 「でもそのほとんどは女性なんだろ? 男の、それも大人のオメガはすごく珍しいって……」  発情があまりにも酷い人には、複数のアルファに会わせてマッチする人を宛がうこともあると心療内科の医師は言っていた。 「……彩都、そんなに発情期が辛いのなら誰かアルファと番になるか?」 「宣親は? 宣親はアルファじゃないの? 僕は他の誰ともあんなことをしたくない。でも宣親なら、幼いころからずっと一緒の宣親なら……」  縋るように見つめた宣親の顔には苦渋の感情が表れている。その顔に彩都は自暴自棄に吐いた台詞に後悔した。  いくら幼いころからの親友といっても宣親は日本を代表する東條財閥の御曹司だ。三男坊だから兄貴たちよりも自由に過ごしている、とは言ってはいるが、将来はこの東條大学医学部の教授となり、東條製薬の社長の座が約束されている。  親同士が仲が良かったから、早くに両親を無くした彩都を東條家は金銭的に助けてくれて、宣親や宣親の二人の兄も末の弟のように彩都を可愛がってくれた。  だからといってこんな無茶な願いをしていいはずは無い。宣親にはどこかの銀行頭取の令嬢との婚約の話まであるのだから。 「俺もお前を助けてやりたい。お前が俺以外の奴は嫌だと言ってくれて素直にうれしい。だけど、俺はアルファじゃないから根本的な解決にはならない」 「宣親は何なの」 「普通の人間さ。第二性ではベータと言われている。彩都が発情したときに相手をしてはやれるけれど、でもそれは一時凌ぎの行為になる。それでもいいのなら、俺は……」 「それでもいいッ!」

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