54 / 181
第三章(15)
「やっと笑顔が戻ったな。俺はお前が能天気に笑ってる顔が好きなんだよ。それに勘違いをしているだろうから言っておくけれど、治験者だからといってどこかに監禁したり、四六時中監視したりなんて無いから。俺はお前に今まで通りの、普通の生活をして欲しい。大学の講義に出たり、ビニールハウスで草花いじって泥だらけになったりな。あ、でもアイスクリームばかり食うのはやめろよ。それと帰るのが面倒だからって研究室に泊まり込むのも」
いつもの宣親の小言が始まった。でもそれがとても嬉しく感じるのは自分の心が弱っているからだろう。
「確かに何もかもが今まで通りとは行かないだろう。でも俺を始め、第二性研究チームが全力でバックアップする。それに彩都が発情しても、俺以外には誰にも触れさせないから」
宣親の力強い言葉に彩都は全身を温かく包まれたような気がした。そのままそっと宣親の白衣に頬を寄せると、宣親も彩都の細い肩に手を添えて優しく撫でてくれた。
(アルファとかベータとか関係無い。僕は宣親が傍にいてくれて本当に良かった。あの行為だって、宣親となら我慢できる……)
家族や兄弟のように思っていた幼馴染の存在が、彩都のなかで少しずつ変化し始めた瞬間だった。
ともだちにシェアしよう!