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第三章(16)

*****  あれから八年――。  彩都は宣親の研究に協力して、今まで過ごしている。  宣親の言ったとおりに彩都は生活の基盤を変えることはしなかった。それでも薬を飲み始めたころは酷い副作用に悩まされたり、上手くヒートコントロールができず、宣親に助けを求めたこともあった。そんな時、宣親は研究室への出勤を休み、自分のマンションに彩都を泊まらせて、彩都の発情が落ち着くまで昼夜の区別なく相手をしてくれた。  そうして過ごしているうちに、いつの間にか宣親と銀行頭取令嬢との婚約話も無くなっていた。 「兄貴たちが東條に見合った相手と結婚するさ。三兄弟の一人くらい独身でいても影響はないよ」  発情期が終わり、いつも落ち込む彩都を宣親は笑いながら慰めてくれた。  彩都もただすべてを他人任せにしていた訳ではない。少しでも第二性とは何なのか、自分なりに調べたりしてみた。  桜斑病サバイバーから生まれた子供たちは片親がサバイバーだと約六割、両親共にサバイバーの場合はほぼ百パーセントの確率でアルファかオメガとなる。オメガの発生率はアルファの二分の一なのだそうだ。  欧米ではかなり早い段階でその存在を認められたからか、彼らはちゃんと社会的に地位を保全されている。だが一部の途上国では悪魔や忌み子と時代錯誤の差別に見舞われ、なかには魔術の生け贄として殺されることもあるとの文献を読んだときには、つくづく日本に生まれて良かったと素直に思った。  性産業に多くのオメガが携わるのはその特性ゆえだろう。オメガは身体的に男女問わず華奢な体格で見目麗しい人が多い。どうしても発情期の間は性衝動にいっぱいになり、勉学ができなくなって落ちこぼれてしまいがちだが、芸能、芸術に秀でた人も多くいるようだ。そんなオメガを、権力者が自身のステータスを示す道具として所有する場合もあるという。その権力者の多くはアルファ性の人たちが占めつつあるのが昨今の世界情勢だ。  シャワーを止め、胸を伝う湯の筋を追いかける。その先に見えた茶色がかった下生えの中心にある花茎が硬くなり始めているのを認めて、彩都は少し気分が曇ってしまった。

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