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第三章(18)
(確かにこんな時期に研究室に来た神代くんを宣親が疑うのは理解できる。でも僕は彼にはもっと違うなにかを感じている……)
稜弥の姿を思い浮かべると、くっと下腹の奥が疼いた。俯いた髪の先から滴った水滴が緩く勃ちあがる鈴口の先に触れて、その小さな刺激に敏感に花茎が反応していく。
彩都は実はアルファに会ったことがない。二十歳のころに彩都を襲った男達のなかにはアルファもいたのかもしれないが、アルファと番うことを拒否してから、宣親が彩都にはアルファを近づけないようにしていたためだ。だから、亜美たちが夢中になって視ていた、あの海外ドラマのような『魂の番』という存在にも、どこか嘘臭くて信じられなかった。
「魂の番は発情とは関係なく、お互いに惹かれあうアルファとオメガのことなんです。もう目があった途端にビビビッて、この人と一緒になるためにこの世に生まれたんだって感じるんですって」
「どうせオメガに生まれたんなら、そんなアルファと一緒になりたいわよねえ。そりゃ、最終的にはどこかのアルファと番うのだろうけれど、やはり自分で好きなった人の子供を産みたいって女なら思うもの」
由香里や亜美は無邪気に夢を語る。
(魂の番なんて……。そんなものはオメガの都合の良い幻想なんだろう)
ゴロゴロと雷の音が浴室にまで聞こえてきた。もうここから出ないと折角温めた肌が冷めていくし、そろそろ稜弥がシャワーを借りに来るだろう。彩都は浴室から出ると体を拭いて着替えを手に取って、シャツがないことに気がついた。
上半身裸で脱衣場を出る。自室として与えられたのはリビングに小さなキッチン、そして寝室だ。リビングを横切り、寝室へ行こうとしたときだった。
「七瀬先生」
厚い雨雲のせいで、窓から光が入らない薄暗いリビングの一角から響いたその声に、彩都は雷鳴を聞いた時よりも明らかに驚いて飛び上がった。
「すみません。何度か声はかけたんですが返事がなかったので勝手に入って……」
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