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第三章(20)

 稜弥に触れられた場所が微かに火照りを帯びる。恥ずかしいのに自分の肌に触れる稜弥の指先に視線が吸い寄せられて外すことができない。やがてその指が桜斑と同じく淡い色をした乳輪の縁を掠めた時、急に背筋から尾てい骨に向けて強い震えが走った。 「……んっ」  おかしい。ぞくぞくと背中に悪寒が走る。いや、これは悪寒ではない。その証拠に彩都の股間が熱を持ち始めている。 (嘘だ。どうしてこんな……)  これは稜弥と初めてあったときと同じ感覚だ。ただ同性に触られているだけなのに、彩都の肌はその指先の温もりをいつまでも離さない。やめて欲しいと言えばいいだけなのに、口を開くと喘いでしまいそうで、彩都はきつく瞼を閉じた。 「ひぅ」  稜弥の手のひらが左胸を包んだ。堪えきれず声が出ると、同時に後蕾の奥深くが潤むのがわかった。 (まさか、ヒート!?)  いくらなんでも早すぎる。今は宣親もいない。思いついたのは直ぐに抑制剤を飲むことだった。彩都は声を出そうと口を押さえていた右手を外して大きく息を吸い込んだ。その時。  ――ふわり。  それは本当にわずかな香りだった。今まで嗅いだことの無い匂い。爽やかな果実のような香りは鼻腔に入り込むと、奥まで届くころにはどこか懐かしい、そして強く大きな存在を感じさせる匂いに変わって、彩都の脳に到達した。 (これは彼がつけている香水の匂い?)  稜弥が香水をつけているなんて初めて気がついた。妙に気になった香りを、もう一度はっきりと確かめたくて思わず稜弥に鼻を近づけたとき、彩都はいきなり稜弥に両耳を大きな手で塞がれてしまった。 「えっ、どうしたの?」  慌てて問いかける自分の声が隠っている。稜弥はその問いかけを無視するように、今度は両手を引いて彩都の顔を自分の胸に押しつけた。濡れたTシャツ越しに感じる硬い筋肉の感触に、彩都の心臓が激しく打つ。 「神代くん?」  カッ、と室内が明るく照らされた瞬間、ドンッ! と建物を揺らすほどの轟音が辺りを包んだ。

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