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第四章(1)
「だから私は今すぐにでも、第二性の国民一斉検査をすべきだと以前から言っていたんだ。そうでなければ、また今回のようなことが起こる。加害者となってしまった彼は財務省の有能な職員だったというじゃないか。それにその後の検査でアルファだと認定されたとも聞く。ということは被害者である男がオメガであるのは明白だ。まったく、オメガという者共は見境なくアルファを堕落させる。早く自身の第二性を明らかにし、オメガたちを特定づけることこそが、こんな事件を未然に防ぎ、優秀なアルファを守る一番の方法だ」
「徳重さん、確かにこの事件は不幸なことに当事者同士が第二性ではありましたが、だからといって準備も整わないうちに一斉検査などできません。国民への周知、理解を求めるための啓蒙、それに小中学校の学習指導要領にも盛り込まないといけない。まだ時期尚早です」
「では、東條先生はこのままアルファによるオメガへの強姦事件が続いてもいいと? なんとも暢気なものだ。ベータ性のあなた達には、我々アルファの危機感など、どこ吹く風ということですか。こちらはいつ犯罪者になるかもしれないリスクを抱えているというのに」
「なにもそんなことは言っていませんよ。ただ、現在の抑制剤が効かず、また高価なために服用さえもできないオメガの人々を、今の状態で社会に晒し者にするようなことは容認できない」
「それなら我がトクシゲ化学薬品の抑制剤を早く保険適用すればいい。薬など万人にピタリと効くものなどないでしょう。それに薬で抑えられないのならば、一刻も早くそういったオメガを隔離するべきだ。昨今のオメガの失踪とやらも、我々が後手に回っているのが要因でもある。それとも失踪したオメガは、東條製薬が極秘に行っている何やら怪しい研究に無理矢理加担させられていたりするのでは?」
鼻で哂って宣親を牽制する徳重の態度に、とうとう我慢ができず思い切り椅子を倒して立ち上がる。その宣親を委員長は、まあまあ、となだめて、本日の会合は解散となった。
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