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第四章(2)

 ガツガツと足音を響かせて宣親は廊下を早足で歩いた。そうでなくても厳つい風貌が、まとう怒りのオーラに増幅されて、擦れ違う人たちを壁へと貼りつかせた。 「東條」  背後から声をかけられ「ああん?」と振り返る。そこには、宣親の表情にビビったのか、ひきつった笑顔を作るよく知る男が立っていた。 「二階堂じゃないか。なんだ、用事か?」 「なんだじゃ無いよ、お前。医者のくせに殺し屋のような顔をしてるぞ。またやりあったのか、徳重剛造と」  二階堂から犬猿の仲の男の名を言われて宣親は大きく息を吸った。これから始まる罵詈雑言を察知した二階堂が、 「待てよ。ここで怒鳴り散らされると他の職員に迷惑だ。それに徳重の息のかかった議員に聴かれると、いくらお前でも不味いだろう。俺の部屋に来い。俺もお前と話がしたいんだ」  吸い込んだ息を宣親はすべて吐き出すと、大人しく二階堂の言葉に従った。  議員会館にある二階堂の執務室のソファに座った宣親は、目の前で大笑いをする衆議院議員で厚生労働副大臣の友人の顔を睨みつけた。 「笑いごとじゃないぞ」 「すまない。しかしワーキンググループの他の参加者の気持ちを思うと、呆れて笑いも出てくるさ。それにしても徳重剛造は相変わらずだな。早く国民の第二性検査を強制実施して、アルファを堕落させるオメガを隔離施設に閉じ込めろとは極論も甚だしい」 「まったくだ。あの、アルファ至上主義思想は俺はどうにも好かん」 「あの御仁は、自身もゼロ世代アルファだと公言しているからな」 「ふん、それも怪しいもんだ。大体、あの男は五十を過ぎているんだぞ? 欧米でさえ初めて認識されたアルファが、今は四十代前半だ。桜斑病にも罹患せずにアルファ性だなんて、ありえない」 「まあ、それでもあの男を信奉する奴らは多かれ少なかれいるわけさ。例えそれが金の力であってもな。アルファであろうが無かろうが、関係無いのさ」 「オメガを迫害する発言をしておきながら、彼らが使う抑制剤で奴は今の富を得ているんだ。これに憤らない奴らも徳重と同じ穴のムジナだ」

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