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第四章(5)
「それもあるし、このキットでオメガと判定されて創世会病院に世話になっても、金ばかりかかって状態が改善されずに、財産をすべてつぎ込んだあとにやっとおかしい思い、慌ててお前のところや他の医療機関で詳しい検査をする人も多数いるそうだ。すると本人は普通のベータだったって判って、ホッとするのと同時に馬鹿高い金を支払った怒りが沸くわけさ。だから今は消費者庁にも苦情が結構入ってきている。このキットは消費者庁から調べてくれと回されてきたんだ。でも、それでもなぜか、創世会病院にはセレブの顧客が増えている」
「金持ちは酔狂だからな」
日本随一の財閥の御曹司にけろりと言われて、二階堂はさすがに呆れてしまった。
「それで、この創世会ってのに行政指導でも入れる気か?」
それがなあ、と苦虫を口一杯に擂り潰したような二階堂の表情に、宣親は面白いと含み笑いをする。
「実はその創世会病院のお得意様に、うちの党のお偉い面々が名前を連ねているんだ。それに現職の農水大臣もな」
宣親は嫌な予感に右手でうなじを揉みほぐす。先ほど笑った二階堂の顔よりもしかめ面を作った宣親に、
「創世会病院を運営している団体の元は、アルファ創世教会っていう小さな宗教法人だ。一時期、過激なオメガ排斥を唱えて、オメガと疑わしい人たちの誘拐まで企てて公安の監視対象になっていた。随分前に解散したんだが、その教会にせっせと資金援助をしていたのが徳重剛造なのさ」
「こんな予感が的中しても少しもうれしくはないな。じゃあ、そのキットの出所はトクシゲ化学薬品、引いてはリードマンケミカルというわけか。元が宗教団体ならこの陳腐な説明書も納得だ」
バサッ、とわざと大きな音を立てて、宣親は手から拡げたファイルを放り投げた。
その開かれたページには、『第二性という稀有な存在は、神の怒りから生まれたものなのです』と大きな見出しで書かれていた。
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