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第四章(6)

「世のオカルト論者は、桜斑病は驕り高ぶった人類への神の鉄槌だと本気で言ってる奴もいる。バベルの塔を破壊した神の雷と同じだと。しかしあまりにも桜斑病の影響力が大きすぎて、一気に人類は絶滅の危機に陥った。すると今度は、子孫を多く残さなければならないと、性別に関係無く子を孕めるオメガが生まれた。ただオメガは繁殖することだけに特化した下等な存在、ベータも何度も過ちを繰り返す学ばない人類だから、神の怒りを解き、混乱の世界を清浄な地に導くために、優秀なアルファが生まれたのだとな」 「本当にバカバカしい」  宣親は壁にかけられた時計に視線を向けると、 「俺はそろそろ彩都を迎えに行かないといけない。徳重の件は、お前たち行政の奴らでなんとかしてくれ」 「そうか、七瀬は今日が講演の日だったか」  二階堂は秘書にテレビをつけるように言った。そして現在、国際農業植物学会の講演が行われているチャンネルに合わせるように指示を出す。 「テレビで講演を流しているわけ無いだろう?」 「今回の農業植物学会の開催は農水省の肝いりでね。久しぶりの国際学会が日本で行われるし、それもあの、七瀬彩都博士が動いて話す貴重な姿が見られるんだから、国営放送を始めマスコミ各社はどこも特番を組んでいるんだよ。今の記念講演もリアルタイムでネット配信もされている」 「彩都の講演を聴いて、意味が分かる奴が一般人にいるわけがない」 「良いのさ。謎のヴェールに包まれていたハイパーウィートの産みの親は、実は美貌の青年研究者ってだけで、半年はワイドショーのネタに困らないんだから」  テレビ画面に講演会場の様子が写し出される。二階堂は秘書を下がらせると、宣親と一緒に画面に見入った。  広い講演会場は満員のようだ。もう講演は終盤に入っているのか、いくつものスポットライトを浴びた彩都の姿がアップで映し出されていた。

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