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第四章(11)

 坂上と島田にそれぞれ紹介されて、彩都は目の前の男に慌てて一礼をした。男は快活に笑うと、 「いつもうちの島田がお世話になっています。しかし、あの七瀬博士がこんなに可愛らしいかただとは。もっと早くにご挨拶にあがるべきでした」  年のころは坂上よりも上なのだろう。白いものの混じっている髪を撫でつけ、秀でた額は日に焼けて黒光りしている。背も坂上とほぼ同じほどで、にこやかに微笑んではいるが、その目にはどこか他者を威圧する光が宿っていた。全体的にまとう雰囲気は成功者然としていて、徳重に「可愛らしい」と評されると彩都は何も言い返せない。 「博士はあの東條宣親氏のご友人とか。なのに弊社をご贔屓くださって本当に嬉しい限りです」  握手された右手の力の強さに彩都は少し顔を歪めた。それでもなんとか笑顔でそれに応えた。 「これからもよろしくお願いします。七瀬博士のハイパーウィートのお陰で、我が社の肥料や農薬の海外事業も好調ですのでね。そのお礼とこれからのお付き合いも兼ねて、今度ぜひお食事でもいきましょう。その時は坂上博士と一緒にね」  言葉は丁寧だが有無を言わせぬ迫力に彩都は「はい」と返事をしていた。徳重剛造は満足げにひとつ頷くとやっと彩都の右手を離してくれた。 「社長、そろそろ次の予定が」  島田に言われた徳重が頷いて、坂上ともう一度小さく言葉を交わすと、彩都に満面の笑みを向けて部屋を出て行った。それを坂上と一緒に見送った彩都は、ふう、とひとつ息をついた。 「紹介したいかたって徳重社長のことだったんですね」 「実は以前から社長に君に会わせるようにとしつこく頼まれていたんだ。君はなかなか東條大学の敷地から出ては来ないし、ほら、東條氏の目もあってトクシゲ化学薬品の人間は安易に君に挨拶もできないからな。それよりも、あのポスドクはどうしたんだい?」 「彼は先ほどの同時通訳の件でフランス語通訳者に呼ばれて……」 「そうか、彼はフランス語にも明るいのか。英訳も聞き取りやすくて良かったね。あれこそ、密かに流行っているアルファという人種なのだろうね」

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