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第四章(14)
「はあっ! んんっ、や……めて……え……っ」
抵抗する声に甘さが混じっているのに絶望する。坂上は邪魔をする彩都の両手首をあっさりと頭の上に左手で縫いつけると、器用に右手で彩都の着ているものをはだけて薄い胸をあらわにした。そして舌を胸に這わせながら容赦なくベルトのバックルを外していく。
「嫌だ、先生っ。はっ……離して、し、正気に戻って……」
弱々しく訴えても、坂上は掠れた音を響かせて粗い呼吸を繰り返すばかりだ。あの陽気で紳士的な坂上の姿はそこには無い。とうとうファスナーも下ろされ、熱の籠った花茎に直接触れられそうになった時、彩都はあらん限りの声をあげた。
「やめろ! いやだっ! 宣親っ、――神代くんっ!!」
急に会議室のドアが壁にぶつかる大きな音が響いた。直後に坂上が動きを止めて、糸の切れた人形のようにドサリと彩都の上に崩れ落ちる。彩都は坂上の重さに、うう、と唸った。
「七瀬先生っ、大丈夫ですか」
気が遠くなる彩都の頬を誰かが軽く叩いている。ぼやけていた視界が徐々にはっきりしてくると、目の前に稜弥の焦った顔があった。彩都は気を失った坂上の体の下から引っ張り出されて、稜弥に抱えられていた。稜弥からはあの爽やかな香りが流れてくる。
「神代くん……」
ほっとした瞬間、彩都は鈍く体の奥から突き上げられる衝撃を感じた。
「……あ、ああ」
「先生?」
急にがくがくと震え始めた彩都に稜弥が怪訝な表情を見せる。はあはあと口で息をして彩都は稜弥の腕から転がり落ちると、床の上で自分の体を抱え込んだ。
「うっ……、ふぅっ、……」
「七瀬先生、しっかりしてください。一体なにがあったんですか。坂上教授はどうしてあなたを襲っていたんです」
自分の肩を両手で掴み、眉間に皺を寄せてなにかに耐えている彩都の顔を覗き込み、稜弥が険しく問いかける。
「コーヒーを、飲んだら急に……おかしくなって……」
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